妖怪! 幽霊! 微ホラー!
この記事では伝奇・和風ファンタジーを厳選して紹介。クリックで本編に移動できます
◇=世界観が良い!
〇=特に管理人のお気に入り
伝奇
完結
きみは小さな居候
370,725文字
久しぶりに訪れた父方の田舎、主人公「柳田真理」は座敷わらしを見つける。どうやら他の人間には見えていないらしい。ようやく出会った自分を見ることができる相手として、座敷わらしになつかれてしまい、気付いたら東京の家にまで付いてきていて!?
男子大学生と少女座敷わらしのほんわか生活。無邪気で子供っぽい、わらしちゃんがとっても愛らしい。しかし「ほとんどの人間には見つけてもらえない」「遊び相手がいない」という孤独もしっかり書かれている。悲しい部分が、幸せを倍増させていて涙腺が緩む……
ネタバレありの感想
基本的に、一日一食、ご飯さえあれば満足なようだったが、真理と一緒に食卓を囲むので、座敷わらしも三度三度、おかずも残さず食べている。
食事の支度が苦にならないのは、「美味しい、美味しい」と言って食べてくれる相手がいるからだろう。
「いーたーだーきます」
「めしあがれ」
「ごちそーさま」
「おそまつさま」
こんなやりとりが、いちいち楽しい。
わらしちゃん、かわいい! しかもちょっとした幸運まで授けてくれるとは……なんという素敵な存在。
しかし、孤独な部分も……
誰にも見られることのない座敷わらしは、ずっと孤独だったのかもしれない。
わらし様と崇められて、おもちゃをたくさん供えられ、だけど、遊んでくれる人はいない。
そんな座敷わらしを見ることができる、唯一の人間が真理なのだ。
「あのね、次に真理が来たら、お人形遊びをしようって思ってたの」
そう言って、おもちゃの山から人形を漁る後姿を真理は黙って見つめた。その小さな背中に比べて、真理はなんと大きくなってしまったことか。
――『次に来たら』って……。そんなこと何年も何年も思ってたのかよ……。
胸が締め付けられる思いだった。
ああ……子供が孤独を感じる、こういうの個人的には涙腺が緩む。1人で何年も待ち続けるわらしちゃん……想像するともうね。
あと1章のクライマックス、わらしちゃんを見つけて連れ帰るシーンもほんと泣けてつらい。やっぱり「家」に、安心して家族と一緒に楽しく暮らせる場所に帰りたいですよね。
あと、恵美さんがいいキャラしてる。大学生で縁も無いのにわらしちゃん見えるとかただもんじゃない。
ほのぼのとする生活に、孤独と悲しみをそえて。上質な日常ものです。
コンビニで夜勤バイトを始めまして。
コンビニで夜勤バイトを始めまして。(天野 アタル) - カクヨム
【書籍発売中‼︎】俺のバイト先が、ものすげえヤバい……。
316,777文字
時給に釣られ25歳フリーター「袴田」が働き始めたのは、自殺の名所のど真ん中に建つ、いわく付きのコンビニだった。実際に次々と怨霊たちが現れ……
本格ホラー。筆力が高く、かなり迫力がある。また、単なる恐怖体験だけでなく自殺・後悔などを軸とした人間ドラマもずっしり重くて引き込まれる。謎の怪異現象というより、死者と生者の物語。
山内くんの呪禁の夏。
195,053文字
幼いころから何度も災いに襲われる「山内くん」。田舎に帰った時に、口から火が出ている不思議な女の子「紺」に出会って? さらに、街では神隠しが起きていた!? 狐と禁呪、恋とおまじないの青春。和風ホラーファンタジー。
筆力があり、さまざまな怪異がたっぷりと登場。特別なホラースポットに出かけていくのではなく、身の周りの空間の中に存在している感じで中々に雰囲気あります。ホラー以外の要素もしっかりしていてヒロインの紺は魅力的だし、伏線と回収も上手い。
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小さな問題
小さな問題(@strider) - カクヨム
とにかく1ページ、読んでください。― 裏切り、殺人、救済。戦慄の群像劇
167,467文字
クラブで働いている運の無い男、優雅な暮らしをおくる専業主婦、とある小学校のスクールカウンセラー、心に傷を負った少女。4人と1つの事件を描く連作中編集。オカルト要素あり。
描写が巧みで、それぞれの生活・感情などがありありと伝わってくる。1人1人にちゃんと人生が見える。人間関係のつながりも上手くできていて読みかえすと面白みを増す。とりあえずクラブの兄ちゃんはキレていい(笑)
タイトルと合わせた章末の「小さな問題」というセリフが何とも効果的で、作品としての質を1段上げているように感じる。
アヤカシ記者、蒸気都市ヲ行ク。
アヤカシ記者、蒸気都市ヲ行ク。(黄鱗きいろ) - カクヨム
大正×妖怪×スチームパンク! 女学生が頑張るお話です。
139,129文字
史実とは少し違った大正時代。「裏島正雄」は不思議な事件を発信する、アヤカシ記者。助手の女学生「薮内あおい」と共に奇妙なできごとに遭遇していき……?
あおいさんの語り口が生き生きとして軽快、ぐいぐい読み進めてしまう。伏線の回収も上手く最後まで読むとパズルのピースがそろっていたことに気づかされる。
ハイカラ娘と銀座百鬼夜行
ハイカラ娘と銀座百鬼夜行(作楽シン) - カクヨム
元気いっぱいの男爵令嬢とローな書生の開国帝都あやかし巡り
104,403文字
元気いっぱいの男爵令嬢と平穏に生きたい書生が、明治時代の東京を駆け回る。何やら女学生が狙われる事件が起きているようで……?
筆力がありドンドン読んでしまいます。ヒロインの環蒔たまきお嬢さんは、ハイカラお転婆令嬢感がすごい。そして狐のアカトキさんが良い性格してる。
ストーリーはやや終盤の盛り上がりに書ける気もするけど丁寧。読み直すと序盤からしっかり伏線が貼ってあると分かって味わいが増します。あと妖怪たちの醸し出す雰囲気が上手い。まさに危険な闇の深さが感じられるというか。
ネタバレありの感想
アカトキさんが、いつも楽しそう!
「わしが大きく変化して、お前らを乗せてひと飛びで帰ってやるが」
狐は、ひらりと飛んで、お嬢さんの肩に乗った。間近でお嬢さんを見てにやりと笑う。お嬢さんはぎょっとした顔で、目をそらした。
「そんな目立つことは勘弁してくれ。どこで見られるか分からない」
ぼくがげんなりして言うと、狐はまた薄ら笑いをして見せてから、ぼくの肩に飛び乗り、するりと姿を消した。お嬢さんがまた目をまんまるにしてそれを見ている。
しっかり自主性があり、いたずら好き。
話全体としては怖いって感じはせず、和風ファンタジーみたいなノリ。しかし、妖怪たちの描写には「あと一歩踏み込むと帰ってこれない恐怖」みたいな空気がある。
言われなくても、幼いころからよく妖怪を見て恐い思いをしてきた。やがて開き直りもしたが、やつらをあえて怒らせたいとは思わない。人の理で量れないやつらだ。
そう思って、もう一度橋を見てみて、ゾッとした。人間の波に紛れた妖怪が増えている気がする。小鬼がぼくに話しかけてきたのは、狐がぼくの近くを離れたからというだけではないのか。
まさに、読んでると「ゾっとする」瞬間がある。確かな表現力を感じる1作です。
帝都つくもがたり
帝都つくもがたり(佐々木匙) - カクヨム
百物語にどこか足りない、夕闇の中の恐怖譚
100,691文字
昭和初期の東京。酒浸りで怖がりの小説家「大久保」とネタに貪欲な記者「関」の2人は怪談を集めるため、あちこちを奔走する。真夜中の恐怖ではない、夕暮れ時の怪奇連作短編。
レトロを意識した文体がとても軽妙で完成度が高い。恐さは控えめで、苦手な人でも読めるでしょう。メイン2人は癖が強いものの人間味があり、なんとも親近感がわく。
ネタバレありの感想
文章そのものに工夫がある作品は好印象。
結局、負けた。関は僕の静かな家にずかずかと歩み入る。いつものことではあるが実に業腹だ。
僕は所謂いわゆる三文文士である。彼の言う通り、親の遺産が少しばかりなければ直すぐに食いはぐれる程度の人間だ。
そんな僕は、鳴き出した蝉の声を背に、忌々しく虚空を睨むとぴしゃりと戸を閉じた。
うーむ、現代人にも分かりやすいながらも確かにレトロな雰囲気を感じる。上手いです。
タイトルも上手く内容を表していて見事。
「あれはね、最初『帝都百物語』となる予定だったのですよ。ところが記事を上げたところ編集長がね、『お前の記事には怪談らしい情緒が今ひとつ足りんな。いち引いて九十九と言うのはどうだ』と」
「ほうほう、それで九十九の語りと。成る程成る程」
つくもがたり……すばらしくセンスのある造語では?
エピソード言えば「第伍話 とおいほんだな」と「第漆話 ほのおのあわい」が印象に残っているでしょうか。
テンポ良く進みながら、1話1話しっかりと味わい深い作品です。個人的には関さんの怖がりっぷりと、精神的弱さに共感しちゃいますねぇ。
座敷童が小豆ご飯に飽きたと言っています。
93,144文字
会社が倒産、恋人との結婚話も破局。落ち込んだ気分で料理をしていたら、匂いにつられて座敷童が引っ越してきた!? そこから始まる楽しくにぎやかな生活とおいしい食卓。
すごく癒される物語。料理はとってもおいしそうだし、座敷童たちは実にかわいい! 文章もリズムが良く笑いどころ多数。
ネタバレありの感想
散歩の途中、畑仕事をしていたオクサマにえんどう豆をどっさりもらった。ラッキー今日はグリンピースご飯だな♪とウキウキしながら帰路についた。
鼻歌を歌いながらえんどう豆のすじをとってさやから豆を取り、塩水にどんどん漬けていく。翡翠煮も捨てがたいけれど、今日は5合分のグリンピースご飯を炊いちゃうんだ。ニヤニヤしながらお米を研いでグリンピースと一緒にスイッチオン。先にグリンピースをゆでた後の煮汁でお米だけ炊いてから混ぜた方が緑が綺麗なのはショウチノスケだけど、私としては断然一緒に炊く派。だってその方が部屋中にお米とグリンピースが炊ける幸せな匂いが充満するんだもん。
アボカドを縦に8等分して優しく皮をむく。春巻きの皮に、『アボカド、シソ、生ハム』のチームと、『アボカド、ベーコン、チーズ』のチームに分けてそれぞれ巻いたらフライパンで焦げ目ができるまで炒める。後はコンソメスープに刻み葱のっけって今晩のおうちご飯完成です。パフパフパフ~。
「わらしさまご飯できたからテーブルに運んで~。」
働かざるもの食うべからず。立っているものは妖怪でも使え。なんちって。今日からわらしさまは、お客様じゃなくてうちのコだからね。お手伝いは必須。
「やった~。今晩も小豆ご飯じゃない。」
「今日は春雨サラダだってさっき言ったじゃん。」
目をうるうるさせているわらしさま。やめて。こっちが切なくなるから。わらしさまよ熱々のうちにたんとお食べ。
作者さまがかなり料理をなさるんでしょうね~、お腹が減ります! 和風から洋風までレパートリー豊富! どれもこれも食べてみたくなる。
グルメ物としてはやや味に関する部分が薄くて「おいしさ」よりもみんなで食べる「楽しさ」がより重視されてる印象。
途中でわらしさま以外にも人外の少年少女がやってくるんだけど、一緒にわいわい食事しているのは実に楽しそう! 子供っぽく驚いたり大食い競争してたりでほほえましい。
座敷童といっても少しづつ成長して幼児というより少年な感じ。主人公の女性に男としての魅力をアピールしたりするんだけど、子ども扱いでスルーされる。騎士の誓い(笑) 壁ドン(笑)ここら辺もかわいい! そして最終的には大人サイズになったわらしさまたちが遊んでるのを想像するとシュール。料理の効能はんぱねぇ。
主人公がweb小説好きののインドア派ってのも個人的には共感しまくり。
終わり方も実に幸せそうで、少し涙がウルっと来る要素もあり、すごく好みの締め方。やっぱ最期の瞬間こそが人生で1番重要、満足して逝くのが究極のハッピーエンドだと思いますね。
幸せといやしがたっぷり味わえる作品です。
きつねよめ
47,360文字
乞食山伏として流れながら、過去を引きずる暮らしをしていた若い男「新右衛門」。彼は、しゃべる狐の仔を捕まえて日銭を稼ごうとたくらんでいた。しかし、狐たちを悲劇が襲い唯一残った子狐は人に化けるようになってしまい……室町時代の社会を背景とした異種婚姻譚。
文章が完全に時代小説のそれであり、良い意味で小説家になろうのクオリティじゃない本格中編。
ネタバレありの感想
にもかかわらず、新右衛門はついに逃げ去ることを選ばなかった。
ためらった末に、行李を下ろしてあるものを取り出す。
咒札ではなく、風車。
それは野風に、からから、きい……と軋みつつ回った。
――妖物ではなく、親兄弟を失った子供が相手と思えばよい。
――あの仔狐はわしと同じじゃ。
時代物の雰囲気を高める言葉遣い、見事な心理描写……めちゃめちゃに筆力が高いです。どっぷりと物語の中に引き込まれ、すごく満足感がある作品。
迷宮雑感〜或る作家によるダンジョン探訪の記
迷宮雑感〜或る作家によるダンジョン探訪の記(佐々木匙) - カクヨム
作家先生、斯くダンジョンを体感せり。
38,125文字
関東大震災を切欠に発見された帝都大地下迷宮(通称ダンジョン)。主人公の作家は編輯(へんしゅう)により迷宮探索体験の紀行文を書かされる羽目に。地下迷宮と、それに潜る探索者たち。部外者である作家の目にはどう映るのか?
大正時代を意識した文体が独特の雰囲気。でも、現代の人が書いているわけで読みやすい。すぐになれるでしょう。
連載中
蓬莱のシーフー
蓬莱のシーフー(毒島伊豆守) - カクヨム
中華鍋、振ってよし 殴ってよし
144,443文字
父が遺した中華料理屋「蓬莱軒」存続の危機に瀕していた主人公の前に、中華鍋を背負った青年「シーフー」が現れた。変わっているが腕は確か、そして正体は長くを生きる仙人!? さまざまな中華料理と不思議な事件の数々!
料理の描写が本格的ですごくおいしそう。グルメ系でも中華は珍しいので印象的。またシーフーのひょうひょうとした性格が実に魅力的。ユーモアたっぷりで明るい軽快な文章ながらも、時にブラックな結末・シリアスシーンも書かれ物語の味に深みがある。
ネタバレありの感想
刻んだしょうがをパッとまいた2秒後には溶き卵をボウルから投下。鍋底に黄色い大輪の花が咲く。
中華料理は基本強火。卵などはあっという間に半熟時代を通過して固まりはじめる。花の命は短いのだ。
そうなる前に、ここで冷えたご飯(お好みに応じて温かいご飯でもOK)をどかんと投げ込む。
東京ドームみたいな形のご飯を杓子のでザクザク崩して卵と絡ませる。同時に手早く鍋を振って中身を空中回転させながらまんべんなく炒めていく。
この時、杓子の背を使うタイプと縁を使うタイプに別れる。シーフーは父と同じ縁派だった。
ちょっと懐かしいかも。
ご飯がパラパラになったら塩をパラパラ。パラパラコンボ。
また鍋と杓子をカシャカシャきしらせまくって鍋をシェイク!
イメージはバイオリン(鍋)を猛烈な勢いで引く弦(杓子)。バイオリンでこれをやると耳を塞ぐことになるが、中華はここがロックンロール。マジで。
びっくりしたご飯が少し鍋の外へ飛び散るっても無問題。むしろ豪快なこれを喜ぶお客さんが多い。
チャーハン! お腹が減ってくる見事な描写。音が聞こえ匂いが香ってくる。ちまき・フカヒレのスープ・エビチリ……ああ、どれも食べてみたい。うまい中華料理はほんと幸せになります。
また、シーフーが良いキャラですよ。色々とギャグを言い自由気まま。いつでもマイペース。だけど契約は守るし誇りはある。そして強い! 人間離れした雰囲気がよく出てます。
そして、困っている人がすべて上手く救済されるとは限らない。シーフーは仙人であって正義のヒーローとは違う。地獄の酸辣麺シリーズとか、昔話に良くある感じの残酷さ。ゲストキャラ1人1人の描写にもすごくリアリティがあり、作者さまの人生経験と人間観察の積み重ねが感じられますね。
飯テロ・ギャグ・シリアス・バトル、色々な風味が絶妙なハーモニーを生み出している作品です。
アクション、バトル
特に戦闘シーン中心の作品。
完結
明治蒸気幻想パンク・ノスタルヂア
816,811文字
流されてきた犯罪者によって作られた四つ葉島。そこで暮らす人々と、大いなる陰謀の物語。
題名に反してスチームパンクの雰囲気は無し。機械と言うより超能力バトルファンタジー。四つ葉島の構造とか、世界観も中々いいですけどね。
ヒロインの橘八千草さんがメッチャかわいい。個人的にはなろうN0.1かも。すげー好みのキャラ造形(笑) 他の登場人物もキャラ立ってます。
明治を意識した文体は、やや読みにくいけど面白い。あと2つ名・技名がセンスとユーモアある厨二病で良い感じ。
人でなしジュイキンの心臓
人でなしジュイキンの心臓(雨藤フラシ) - カクヨム
鼓動は告げる。落ちよ、輝け、限りある命のままに、と。
191,281文字◇
神灵(カミ)が人に魂を与え、死後の復活を約束する世界。しかし、魂を欠いた者は許されざる存在〝ニング〟になる。その後は罪人として狩られるか、裏組織の一員として働くか……
主人公「ジュイキン」は組織の任務を終えたある日、かつて幼い自分を見捨てた兄と再会する。傷つき死にかけた彼に与えられた、樹械(きかい)の心臓。それが世を揺るがす災厄の始まりだった。
近代中華風ダークファンタジー。植物と魂をメイン要素とした独自の世界観がとても良い。すごく絵になるシーン多数。あと猫の「ミアキン」が、かわいい。
連載中
退魔の盾
146,357文字(第1章完結済み)
連続殺人犯として死刑を受けた主人公だったが、気付くと秘密裏に蘇生されていた。訓練のあとに引き合わされたのは退魔の力を持つ女性。古くから日本を守ってきた一族のお姫様らしい。社会の裏にうごめく闇の存在と、それに立ち向かう警察特殊組織の戦い。
何と言っても主人公が殺人鬼なのが個性的。独自の哲学と、何度も出てくるヒロインへの殺害願望。やべー奴だからこそ良い味してる! ストーリー、設定も練りこまれており重厚。格闘技および銃器に対する知識も深いようで丁寧で鋭い描写は迫力があります。
ネタバレありの感想
凹レンズ状に窪んだ、老人の口を覆うラップ。
大きく見開かれた老人の濁った目。
生命にしがみつこうとする、枯れ木のように痩せたわななく彼の手。
動かないはずの足がばたついたとき、感動のあまり涙がこぼれたのを覚えている。
やがて老人は小さく痙攣して動かなくなり、ボクは長年の念願だった死の瞬間を見ることが出来たのだった。
ああ……何と素晴らしい経験だったことか。まるで、全てが黄金色に輝いていたかのようだった。
もっと、もっと殺したい。もっと、もっと、もっと、もっと……。
『死』に触れ、生命の煌めきが消えるその瞬間を見たい。
その時、ボクが思っていたのはそんなことだった。後悔などカケラも無かった。
これが主人公とはね(笑) 序盤から一気に引き込まれますよ。ありきたりな作品じゃないとすぐに分かる。23人も殺してる超危険人物で普通なら完全に悪役。
獲物を苦しめたいのではなく、死の瞬間にこそ輝く生命の尊さを探求している。思考もきっちりと筋が通っていて、非常によくキャラ立ちしてます。
ヒロインの「奈央」さんと組んでからも、しょっちゅう「今ここで殺したらどんな顔をするのかな?」とか考えちゃうんだから(笑)
そして、その奈央さんも実に魅力的なキャラ。強くてかっこよくて優しい! 加えて、怒ると古語が出るのもグッと来ます。いいですよね素が出ちゃうキャラって
あと他の主要キャラだと堀田さん好き。微妙に巻き込まれ不幸体質、勘は良いけど人を見る目が無い、小動物系で愛らしい。マスコット枠と言いますか(笑)
そして出てくる悪役たちも、主人公に負けず劣らずの「危険性」「嫌な空気」がしっかり書かれている。個人的には運営会社の金子さんが有能な子悪党でステキ。他にも過去の殺人鬼たちが使っていた呪いのこもった武器とかそれっぽくていいですよぉ。
バトルシーンも躍動感があります。
一瞬、ボクは躊躇した。
的を撃ったことはあっても、生身の人間を撃つのは初めてだった。
こんな簡単に、撃っていいのか? という思いがあった。もっと、こう味わうように初めての射殺を行うべきではないかのかと感じていたのである。
狭い室内で、重い撃発音が響く。大口径拳銃特有の、大太鼓を叩いたような轟音だ。
二百四十グレイン(約十六グラム)の弾頭が飛び、銃を握った右手は上に跳ねた。
ボクの放った銃弾は、わずか五メートルほどしか離れていない男の胸骨を粉砕し、肺と心臓を破裂させて背後に突き抜ける。
男は不可視の巨大な手で弾き飛ばされたかのように後に吹っ飛び、壁に叩きつけられて動かなくなった。
やっぱり、この死に方はつまらない。
主人公がやべー奴なんですよねぇ(再確認)。
味の濃いキャラクター、見事な描写力。さすがに書籍化も納得の面白さ。
この「退魔の盾」自体は完結表記になってますが、物語としては途中。続編を予定されているようですね。
web小説だと異世界ファンタジーも含めて西洋風が多め。だけど、和風とかアジアンテイストもいいですよね!