小説家になろう、異世界ファンタジーおすすめ作品52選!

旅! 剣と魔法! モンスター!

500以上のweb小説を読んできた私「イマ猫」が厳選! やっぱ1番作品数が多いジャンルだし、読む方としても「web小説と言えばファンタジー!」って感じはありますよね。タイトルをクリックで本編に移動できます。

=世界観が良い!

=特に管理人のお気に入り

スポンサーリンク

異世界転移・転生

転移:チートあり

連載中

Re:ゼロから始める異世界生活

4,962,132文字

コンビニ帰りに異世界へ送られてしまった菜月昴(ナツキ・スバル)、手に入れた力は死んだら記憶も持ってやり直せる「死に戻り」だけ!

失敗して繰り返し死にながら正解を探っていくという、ビデオゲームみたいな物語。ただし死ぬ時は普通に痛くて怖い。しかも自分だけ記憶をもってやり直すわけで、周りとの人間関係が難しい。希望と絶望を行ったり来たり。

個性的な設定、魅力的なキャラクター、ハードで重い展開。アニメ化までされたweb小説でもトップクラスの人気作。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

異世界迷宮の最深部を目指そう

3,459,829文字

よくある異世界転生もの……に見せかけて少しひねりが効いている。1000年前に何があったのか、迷宮のボス「理を盗むもの」たちの未練とは?

この作品の魅力は「厨二病」と「ヤンデレ」。登場キャラたちの呪文が最高に厨二でかっこいい! 個人的になろうNO.1の呪文詠唱。そして、ヒロインたちはかわいいけれどガチで病んでてお近づきになりたくない人ばっかり(笑)

落としてから上げる系のストーリーで苦しい展開も多い。また、全体的にもっさりしているのが難点。ただし、厨二病とヤンデレが好きな人にはたまらない作品。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

田中のアトリエ ~年齢イコール彼女いない歴の錬金術師~

2,131,014文字

年齢=彼女いない歴のブサイクな中年童貞「田中」。テンプレ通りにチートをもらって異世界で勘違いされつつ大活躍。

方向性としてはテンプレだが、下ネタ・エロネタを自重しないスタイルで独自の存在感。地の文は男の欲望だだもれ(笑) なろうではギリギリのギャグがたまらない。かなりきついので読む人を選ぶ気はする。

また、主人公の田中が、淡々としつつも卑屈でコミュニケーション能力があり、なんというか社会人として生き延びてきた「童貞中年」感が非常に上手く出ている。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

とんでもスキルで異世界放浪メシ

1,157,294文字

異世界召喚に巻き込まれたに巻き込まれた主人公の固有スキルは『ネットスーパー』!? でも、異世界でもおいしい料理が作れると喜んでいたら伝説の魔獣が契約しろと命令してきて……

異世界のモンスターを料理して食べまくる異色ファンタジー。強いのは主人公ではなく契約した魔物たち。

ストーリーとしては、仲間がモンスターを倒す→それを料理して食べる→うまい!の繰り返しで割と単調。しかし、本当に料理がおいしそうなので読んでて飽きませんね~。

また、今のところ恋愛要素ゼロってのも珍しい。恋愛に頼らず面白い作品を書けるってのは個人的には評価高いです。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

転移:チートなし

完結

イカれた小鳥と壊れた世界 

453,209文字

ある日突然ファンタジー系異世界に召喚された鳥取県在住女子高生、鳥飼小鳥。若干天然キグルの少女が送るへんてこテンション異世界日常物語。

混沌とした世界観に、バリバリ個性的なキャラクターたち。あふれでるパロディネタに、加速していくカオス。一応は異世界ファンタジーなんだろうけど、一般的な作品とはまったくストーリー展開と読後感が違います。ギャグコメディ。しかし、戦闘シーンは無駄に緊張感がありかっこいい。

ギャグが、ぶれない。最初から最後まで面白い。お気に入りのキャラはイカレさん。根は優しいがド畜生な部分も多くて笑う。

 

払暁

190,085文字

異世界から召喚されてしまった主人公。魔術で男に変身し、爆発魔法で敵軍を撃退、回復魔法で1人の美貌の騎士を助けることに。しかし、性別を誤解されたまま彼から主従の契約をされて……!? 2人の関係の進展と、国の未来。

演劇のような、華やかで迫力ある文章に引き込まれる。文章の美しさがキャラに負けていない。また、恋愛面だけでなく異世界転移ものとしても工夫のあるストーリー展開で終盤の真実には胸を打たれる。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

連載中

 

幻想グルメ 〜健康で文化的な最低限度の異世界生活〜

258,044文字

2年前、不幸な事故で異世界に転移してしまった「桂木俊一郎」。テレビもゲームもない世界での唯一の楽しみは、美味しいものを食べること。知識を武器に成功した男が、仕事をしつつメイドと共に各地の食をめぐる。

光る果物、世界樹の実、氷の女神のアイスクリーム、空を泳ぐ魚……ファンタジーグルメ系の中でも食材の幻想度が頭抜けて高い。次はどんな食材が出てくるのかワクワクドキドキさせてくれる。

また、土地神を中心とした不思議な空間の描写も非常に美しく、ファンタジー小説としてのこだわりを感じる良作。

 

結構可愛いんだけど殺人鬼なのが玉にキズ

243,182文字

ヒロインは殺人鬼! 明るく爽やかに飛び出してくる殺人鬼哲学が面白い。話しは通じるんだけども普通に殺しまくり。

そして、主人公は蘇生師。人が死んだり生き返ったり。人生・記憶・死・殺人、なかなかに重い部分がメインテーマになってる気がするけどギャグも多くて読みやすいです。

転生

完結

無職転生 - 異世界行ったら本気だす –

2,835,125文字

小説家になろう、累計ポイント堂々の1位。異世界転生ものの代表作にして納得の完成度。

チート&ハーレムではあるけれど、両方とも描写が細かくて深い。主人公は強くて大活躍するけれども最強ではない。3人のヒロインが出てくるけれど、しっかりと責任を取って家庭を守っていく。恋愛より家族が基本軸というか。薄っぺらい楽勝人生ではなく、山あり谷あり。

世界観もテンプレなファンタジーを土台にしつつも、しっかりと独自の設定が生きている。さすがに面白いですわ。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

人外転生

完結

ゴブリンの王国

2,253,560文字

転生した先はゴブリンだった! 記憶を失ってしまった男は、何かに突き動かされながらゴブリンのリーダーとして大陸統一を目指す。

成り上がり戦争物で、なろうの中では割と真面目に戦争してる感じ。主人公はめちゃ強いけれど1人で勝てるほどじゃなく、がんばって軍隊を育てたり同盟を組んだりします。ありとあらゆる面で有能で頼れるスーパー指導者。魔物とか亜人もたっぷり登場。

敵も味方もかっこいいけれど、死んでしまうキャラも多数。また、ゴブリンたちの名前が覚えにくいと評判。私はさらっと頭に入ってきましたが、このせいで脱落する人もいるみたいで残念無念。

 

人狼への転生、魔王の副官

1,461,246文字

人狼の魔術師に転生した元日本人の主人公「ヴァイト」。魔王軍としての都市占領、さらには人間との融和政策、国の発展、外交などなど……幅広い分野で大活躍!

剣と魔法とモンスターと魔王の世界、戦いの中でどんどん出世していく主人公。全体的な方向性で言えばweb小説としてのテンプレ。しかし、読み進めていくうちに設定にもストーリーにも作者の個性が光る。

作者さまはすでに父親として家庭を持っているらしく、大人だからこその味がありますね。私のイチ押しキャラはパーカーさん。そして、師匠も扉を開いた死霊術師だから未来まで存在しているのでしょうか?

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

堕落の王

375,126文字

7つの大罪を元にした悪魔たちのいる世界。主人公は唯一にして絶対である怠惰の魔王として今日も眠り続ける。一応、異世界転生ものだけど地球時代ほぼ無関係。

基本的に主人公は動かない。どうしても直接に戦わないといけない時だけ、嫌々ながら出ていく。でも最強。

超めんどくさがりな主人公が個性的な作品。ここまでのダウナー系はweb小説だと珍しい。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

連載

北の砦にて

438,810文字

日本人女子が、雪の精霊の子ギツネに転生! かわいいモフモフと、北の砦の屈強な騎士たちによるほのぼの交流譚。

とにかく主人公である子ギツネがかわいらしい。頭の中でイメージすると顔がにやけます。章の最後にある「脳内絵日記」には作者さまのイラストもあるんですが、これまた癒しパワーがやばい!

少しだけ人間モードになる部分もありますが、基本的にキツネ状態なので、モフモフ好きでも満足できるんじゃないかと。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

専門知識系

主人公が何かしらの専門知識・技術を持っているタイプの作品。読むと勉強にもなったり? 主人公は学生じゃなく社会人が多め。

完結

異世界落語

495,651文字

世界を救う為、救世主を召喚せよとの命を受けたサイトピア国宮廷付きのダマヤ。だが、ダマヤが手違いで召喚したのは「ハナシカ」だった。これは、一人の噺家が落語で世界を救う物語。

落語を知らない私でもとても楽しめました。現実の噺を上手くアレンジして、ファンタジー世界の落語に変換しているのがすごい。解説があるので、元の噺を知らなくても大丈夫。

ストーリー展開自体にも落語のエッセンスがあって面白い。全体的に話・文章が上手いのは、やはり作者さまに落語の経験があるからなのでしょうか。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

リア住怒りの鉄拳 ~仏の顔もサンドバッグ~

118,228文字

複製僧兵がファンタジーの世界に召喚された! 人類を救うため仏理的な力で敵を打ち倒す! 異世界召喚×仏教ネタ。発想がすばらしくて、突っ込みどころ多数の思わず笑っちゃう文章がたまらない。

仏教由来の難しい言葉も多いけれど、ストーリーは王道なバトルファンタジーでボーズ・ミーツ・ガール。

ネタバレありの感想

相手の出方に応じ相応ふさわしき処方を以て遇するこれを、総合戦闘術仏道において因果応報と称する。故に、オショウのすべきは決まりきっていた。
前腕の力のみによる再投擲。モーションの短さに反し、稲妻の速度で長柄が飛ぶ。

何を用いて殴るのか、何を殴るのか、何を想って殴るのか、何を為そうと殴るのか、何が殴った後に生まれるのか。
これこそが人にも戦いにも欠かせぬ五蘊ごうんである。
五蘊なくして我はなく、我なくば他の全てはないのに等しい。

右の頬を打ったならば左の頬も、とは総合戦闘術たる仏道の教えである。左右の拳がエンドレスに輪廻するのも致し方ない。

いやいや、因果応報も五蘊も輪廻も、そういう意味じゃないから(笑) 他にも仏教をネタにしたセンスあふれる単語がたっぷり出てきます。

ストーリーは魔皇の侵略で人類絶滅の危機という、けっこうシリアスな展開なのですが……? この作品の本質はコメディ。そういうことです。読んだときは魔皇さんに同情しましたね。普通なら無敵のはずなんだよなぁ(笑) そりゃ、殴られたら「え?」ってなりますわ。

ストーリーとそれぞれのバトルシーンが無駄にハイレベルなのが、さらに笑いを誘う。普通にハラハラドキドキするんですよ。思わず真剣に読んでるところに仏教ネタが突っ込まれるのが(笑)
ギャグも物語も楽しめてしまう奇作です。

 

異世界求法巡礼行記

55,348文字

禅僧「平梵扶通(へいぼんふつう)」は牛車に轢かれた拍子に異世界へと転移してしまう。戸惑う扶通だったが、持ち前のいいかげんな性格ですんなり溶けこみ修行の旅を続けていく……

意外にがっつり書かれる深い禅の精神が逆に笑いを誘うコメディ。こちらも仏教用語を使った言葉遊び多数。

ネタバレありの感想

働くのも修行のうちだ。坐禅すわるばかりが大悟への道じゃない。「動静どうじょうへだてなく定力じょうりきを養う」ということばもある。つまり、体を動かし働くのも、静かに坐禅を組むのも、乱れぬ心を作るのに役立つというわけだ。

俺は衣を脱ぎすて、川に飛びこんだ。冷たい水が肌を撫でていく。身も心も洗われるようだ。自然のままの快楽――まさに禅味だ。

「それより服着てよ!」

女童は俺の股間に目をやり、手で顔を覆う。

「全裸はすなわち裸に通ずる。これが俺の戦闘形態よ」

俺は拳を腰に当て、低く構えた。

う~ん、このセンスはすごい(笑)。ギャグコメにして深い精神性。鎌倉時代の禅僧を異世界転移させるっていう発想がね……それこそ凡人は思付けませんよ! 1話の内容とか、普通に勉強になるんだよなぁ。印象に残る変わり種です。

連載中

主人公以外が地球人

完結

DJマオウのデッドオブナイトラジオ

113,455文字

魔物たちを支配する大魔王。その趣味はラジオ放送! 今日も色々な魔物たちからのお便りに答えつつ、何と勇者からの投稿も!?

軽快でユーモアたっぷりの文章が楽しい。ラジオ放送シーンは実に良いリズム感で笑ってしまう! ド〇クエなどファンタジーの定番ネタも色々と登場。そして世界観としては壮大な設定があり、そこら辺のギャップも絶妙な雰囲気。

ネタバレありの感想

『マオウ様! お願いします! のコーナーコーナーコーナー!!』

「このコーナーは主にマオウ様に色々なお願いや相談事をするコーナーです」

そうなんだけどさぁ~~~~~~~。
最近なんか真面目なお願いや相談が来ないんだよね。
何と言うか無茶ぶりばっかりしてくるのが多いんだけどこれどういう事?

「マオウ様がどんな事でも解決してみせる! って大口叩いたからじゃないでしょうか。実際大魔王だから魔法で何でもできるけどそれじゃ面白くないんで魔法は使わないで解決策を考える! とか自分で縛りプレイみたいな事を言いだしちゃって。あまり言いたくないんですけど、マオウ様はアホなんですか?」

いやね、全知全能とまではいかないけど僕だって神様みたいな存在なんだよ。
あえて使わない方が面白い、そう思わない?
なんでもできるからこそあえて縛る、これこそが僕の矜持だ。

「なんか効果音でキリッ、とか言いそうなセリフは結構です。こんな人はほっといて早速お手紙の方に行きましょう」

『勇者ハッシー様からの今日の報告! のコーナー!』

では早速読み上げます。

* * * * *

こんにちはマオーさま。勇者ハッシー@レベル32です。
――はいこんにちは。またレベル上がってますね。

最近はレベルも上がってきまして、ようやく冒険も安定するようになってきました。ヴァルディア王国のある、エウリシア大陸の敵くらいならもはや全員殴るだけでも大体は倒せるようになって、強くなったなという感慨をかみしめています。
――そうだね。大体レベル32くらいになれば表の世界ならすべての大陸を回れるくらいならいけるだろうね。変な所に行かなければ。魔術も奇蹟も強いものが揃って来るし、慎重なパーティならまず全滅はないかな。

この楽しげなテンション! 読んでるほうも笑顔になりますね。文章の流れが良く、文章ではなく「語り」の空気がしっかり出てる。見事な表現力。

なかなかにラジオ放送感がありますよ~。読者からの手紙を読み上げ、音楽紹介、ゲストとのトーク……スタジオ収録の様子が見に浮かぶようです。勇者ハッシーの投稿が毎回面白い(笑) 最後の苦労話とか、めっちゃ笑いました。

モンスター側の視点で、現在位置と攻略法などを伝える「ダンジョンアップデイト」も好きですね~。魔王「軍」として組織化されてるなら、こういうのも本当にありそう。

そして世界観も面白い。けっこう多くの神々がいて、前王さまとマオウさまも相当にやばい存在の様子。10万年とか平気で出てくるし。なかなかのスケール感。人間の冒険者たちは真面目に戦ってるんだけど最強すぎる魔王にとってはすべてが暇つぶし。

最初から最後まで良い感じにゆるい。エピローグとか前王さまが大惨事になってるのにスルーされてるし……それでいいのか(笑) 使いが雑ぅ! 作者さまのセンスが光る作品です。

連載

【連載版】あたしメリーさん。いま異世界にいるの……。

144,115文字

貧乏アパートに上京してきた主人公。そこに呪いの人形メリーさんが襲撃してきて……しかし、別のアパート住人の儀式に巻き込まれて異世界に!? メリーさんは地球に戻れるのか? そして地球のほうも怪奇現象と変人だらけ!?

カオスでハイテンションなギャグ。すさまじい密度で爆笑! 怒涛の勢いがたまらない。ポンコツで凶暴なメリーさんの異世界道中もフリーダムだけど、地球の方も宇宙人とか幽霊とかで面白すぎる。

ネタバレありの感想

『そう。あたしメリーさん。いまさっき小さな村に着いたの……』
「ほう。原住民との遭遇か。なんか問題でも――ああ、言葉が通じないとか?」

普通に考えれば異世界に行って日本語が通じるわけはないもんな。

『あたしメリーさん。ううん、普通に日本語も河内弁もアクロ語も通じたんだけれど……』
「ご都合主義過ぎるっ!!」
『あとマク○ナルドとす○家とし○むらも出店していたわ……』
「どんだけフットワーク軽いんだ連中っ!?」

帰ってきた俺に向かって、ややくぐもった声でそう気軽に声をかけてくれる管理人さん。
ちなみに妙齢の女性である――多分。
多分と言うのは他でもない、彼女はいつも丸い金魚鉢を逆さにかぶっているからだ。

生憎と金魚鉢のほとんどは透けそうで透けない青色の色ガラスで覆われているため、その素顔は窺い知れない。

いや~、ギャグ作品って説明が難しいですよね。ともかく、すさまじいネタの量。ネタしかねぇ。笑えるというか、笑い続けられる。

メリーさんの異世界記だけでも作品になると思うし、地球にいる主人公の不思議な日常でも作品になるはず。
だけど、それを1つの作品で同時展開してしまう! カオス×カオス! ギャグの贅沢2段重ね! とてつもないギャグの連射速度!

これだけの量を思い付けてしまうとは……作者さまの脳内もだいぶ不思議(笑)
ノリと勢いで突っ走るカオス系の作品として、かなりの面白さでしょう。

 

異世界殺人鬼大全

18,883文字

ファンタジー世界に存在した大量殺人犯、彼ら彼女たちの紹介と事件の真相を書く連作短編。

非常に良い発想。1つ1つの話はとても短いが、しっかりと広がりがある。後世の人々が信じている常識と、殺人鬼たち本人の独白(=真相)がズレていたりして何とも味わい深い。個人的に好きなのは5、7、11、15あたり。

ネタバレありの感想

さて、皆様は殺人鬼ときいたときに誰を思い浮かべるでしょうか?
迷宮の殺人鬼とよばれたマッシュ?
それとも娼婦殺しのガランシェール?
正体不明の赤マント?
他にも有名な殺人鬼はおりますが、獣人の皆様にかぎっていえばリリアーヌでしょう。
何せ、いまでさえ『悪い子はリリアーヌがさらってしまうぞ』と子供は脅されるのですから。

こうして救世主とされていたチャリオは、一転して殺人鬼となり、1655年に死刑になりました。

チャリオが人体実験で殺した総数は、少ない数では100とも、多い数では万ともいわれています。

しかしながら、チャリオがつくりだした特効薬によって救われた人数は数十万は軽く超えると言われています。

う~む、どの話もアイディアのひらめきがありますねぇ。作者さまのセンスが光る物語です。

安定して往来可能

2つの世界を割と簡単に移動できてしまう作品

完結

異世界だろうと、ここをキャンプ地とする!

61,778文字

ソロキャンプをしようと思って山道を行けば、何やら周りの自然が美しすぎる。そしてエルフたちと遭遇して!? 協力しながらの食材集めとカレー作りは成功するのか?

異世界ほのぼのキャンプ。丁寧な自然の描写、おちゃめなエルフたち、おいしいご飯。まったりのんびり、読んでて癒されます。ただしヒロインの巨乳描写が多いのでかなり男性向け。

ネタバレありの感想

そして、キャンプと言ったらやはりカレー。

~~~

鍋からは、熱風と言えるほどの蒸気が顔にぶつかりほどけていった。
鼻先にかすった香りは予想よりも獣臭くなく、トマトの酸味と人参の香草の風味、さらに赤ワインの渋みがコカトリスの肉の臭みをうまくまるめこんでくれたようだ。
火のとおりの確認で、竹串で人参を刺してみるが、抵抗なくつき抜けてしまう。これは煮込みすぎたかもしれない。さらにぷっくりとふくらんだ肉をつつくと、これも今にもほぐれそうだ。

だがそれだけ煮込まれていれば、このスープに旨みが溶け込んでいるのは間違いない……!

~~~

うまそうな食事シーンはいいですよね! あと、星空を見ながら酒を飲む場面とかも何ともステキ。キャンプは男のロマン、そして巨乳も男のロマン。

~~~

彼女はそんなことなど関係なしに矢継ぎ早に質問を繰り返し、今まで何をしていたいのか、これから何をするのか、どんな異世界から来たのかなどなどなどなど……

だが至の思考は今、その質問に答えられる状態ではない。

腕にまとう、胸の圧力……
スレンダーと見せかけての、ギャップからくるこの胸の大きな重み……

……たまりません………っ!

声に出して言いたくなるのを堪え、至は右腕にからむ胸の温もりに癒されていた。
ローブがめくれて見えた胸は、Hカップぐらいだろうか。
ど定番なフレーズでいうとマシュマロのようにふんわりとしていて、たっぷりした温もりが腕を通して伝わってくる。

~~~

出てくる2人のエルフは両方とも親しみやすくユーモラス。一緒にキャンプできたら楽しいだろうな~、としみじみ思ってしまいます。

また、エルフの魔法が活躍するシーンもあれば主人公の知識と道具が役立つ場面もあり、「異世界と地球」が対等な関係として書かれていてファンタジーとしてバランス感覚も良い感じ。やっぱり火の魔法が使えると野外調理には便利そう。

全体を通して、男性の夢見る理想の休日という雰囲気。ワクワクドキドキのある小冒険。作者さまが楽しんで書いているのが伝わってきます。こういう作品は読んでるほうも素直に楽しくなっちゃいますよね。

連載中

異世界食堂

680,485文字

洋食のねこや、そこは土曜日だけ異世界につながり不思議な客がやってくる。

ファンタジー世界の住人が現代日本の料理のうまさに驚く物語。基本的に1話完結、客がやってきて料理を食べて帰る。それだけの内容だけど1人1人に事情とこだわりがあって面白い。

そして何より、本当に料理の描写がおいしいそうで読んでるとお腹が減ってきます。夜中に読むとつらい(笑) ファンタジーグルメというジャンルを有名にした異色作。

ネタバレありの感想

(……ああ)
初めて飲む異世界のミソのスープは予想通りに美味であった。
海の草の煮汁にミソを溶いたスープは程よく煮込まれ、スープそのものの熱さも相まって舌の上に染みこむ。
具材に使われた海の草はその旨みをたっぷりと吸って独特の食感があり、小さく切られたトーフはいつも通り柔らかく崩れる。

表面はカリカリに焼かれていながら中は柔らかな薄いパンからはほんのりとした甘さと上質な小麦の味がする。
それを越えるとその先にあるのは、黒い衣。
どうやら帝国風料理のように衣をつけて油で揚げたものに、たっぷりと味付けをしみこませたらしいそれは、噛みしめるとギュッと味付けがあふれてくる。
酸味と甘み、それからほんの少しのツンとする辛味が含まれた衣の強烈な味は、そのすぐ下にある肉から漏れる肉汁と脂の味で薄まり、ちょうどよい塩梅となるのだ。

一口食べてしまえば、後は早かった。
まるで飢えた犬が久方ぶりにありついた餌にがっつくようにグスタフはカツサンドを口に放り込んで食っていく。

むぐぐぐ……おいしそう!

やってくる理由は客によって違う。毎週の楽しみだったり、たまたま見つけた奇跡だったり。時々の贅沢だったり、人生を変える運命の出会いだったり。種族としても人間、エルフ、リザードマン、ラミアなどなど多種多様。

最近ではファンタジーグルメは人気の定番ジャンルになってきてますが、この流れを生み出したのは本作なのでは。異世界食堂の大ヒットからweb小説の中でグルメ系が増えた、もしくは評価される作品が増えた印象。

毎回ワンパターンな展開と言えばワンパターン。しかし、ファンタジー・グルメの両面で質が高い。独自の宗教が設定されていたり、けっこうファンタジー部分も個性あり。
大人気になるのも納得の作品。ほんと良いセンスです。


書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

異世界居酒屋「のぶ」

470,843文字

古都の路地裏にある一風変わった居酒屋「のぶ」、そこは日本とつながっていた! ファンタジー世界の人々においしい料理とお酒を出す話。↑で紹介した異世界食堂と似たような方向性。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

その他

分類しにくい作品

完結

連載中

もうどうにもならないので異世界転移! なろうファイターになろうッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!

135,159文字

一人の男が伊勢海町いせかいちょうに転移してきた! そこは執筆で生き死にが決まる過酷な世界。小説バトルで命を削り合う“なろうファイター”たちは、強靭な体と狂人な精神を持つ危険な存在。主人公はなろうファイターの頂点を目指して暴虐の限りを尽くす!

なろう&テンプレweb小説をネタにしまくった怪作。勢いがよすぎて笑い転げる。カオスでシュールで毒気たっぷり、主人公もクズで外道。ギリギリなネタが多すぎる。かなり読む人をを選ぶ作風だけど、合うなら爆笑できます。ギャグの密度がヤバい。

ネタバレありの感想

もうね、序盤からフルスロットルで笑っちゃいますよ。

今作の主人公である高田浩二!
彼は普通の高校生35歳。最終学歴は保育園中退! 前職業はブラック企業のサラリーマン兼ニート!
ここに転移して三ヶ月が経った!
性格は努力を嫌って世間を斜めに見ているタイプである。多分!
虐められた事もあったと思う。多分!
カラコンと髪染めで黒髪黒目をあえて完全再現してあるので、目の焦点が合っていないが完全に今時のよくいる主人公――何も問題は無い!

行われている競技はなろうファイター同士の最もポピュラーな勝負――スピードファイト(通称:音速遊戯)!
決まったテーマで同時に執筆を行い投稿!
様々な手段を用いて時間内にブクマとポイントを奪い合うまさに地獄のデスマッチである!

《早い! 銀竜寺選手! 試合開始から四時間が経過したが既に30話投稿! たいしたストレスを読者に与えること無く物語はラスボス戦だーッ!》

《対する炎獄選手も負けていない! 比較的重めの世界観をそれっぽく演出しつつも、なんやかんやいってヒロインを誰一人殺す事無くゴールまで突っ走る!》

このセンス(笑) やばいっすわ……なろう&テンプレweb小説をネタにした作品も増えてきたけど、その中でも抜群のキレ。整合性とかリアリティを投げ捨てて、堂々とネタに走りまくってる。

そして、割と分析自体はまともなのが面白さを倍加。なんというか「作者さまは小説家になろう作品をたくさん読んできたんだな~」と感じるんですよね。外部の人間が表面だけ見て批判してるんじゃなくて、内部にいるからこその知識量と熱を感じる。

番外編 幼女戦記

幼女戦記Tuez-les tous, Dieu reconnaitra les siens

掲載場所:Arcadia 長編、完結済み。

ブラック企業で働いていたサラリーマンが異世界に転生。第二次世界大戦的な状況の中で大活躍する……幼女の外見で。見た目と内容のギャップがやばい。

自己保身のために行動しているはずが、周りから見えれば戦闘狂の愛国者!? いわゆる勘違い系の要素もあってちょっと人を選ぶかも。

ただし、センスある厨二っぽさと悪化していく末期戦が面白い。主人公たちの国は、ドイツみたいな立ち位置。アニメ化までされた話題作。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

ここから↓は、転移転生要素なし。

世界観のテンプレ度高め

冒険者、エルフ、ゴブリン、ダンジョンなどなど……いわゆるRPGゲーム風に近い世界観の作品

バトル系

完結

ノームの終わりなき洞穴

754,523文字

世界屈指の巨大洞窟、ノームズ・エンドレス・ダンジョン。実情はたった一人の錬金術士と意地汚い精霊によって、やむにやまれぬ理由から作られていた……

いわゆるダンジョン運営ものの変形。前半は洞窟を掘り進めてのお金稼ぎ、終盤はそれを使っての過酷な旅。ヒロイン(?)のビーチェがかわいい。

旅パートに入ってから結末までは賛否両論ありますが、個人的には好きですね。容赦なくキャラが死にまくり。終わり方も苦いけれど、それがいい。

 

猟犬クリフ~とある冒険者の生涯

416,009文字

幼いころに両親を亡くした少年は成長し、凄腕の賞金稼ぎ「猟犬クリフ」として様々な事件や賞金首と対峙することになる。1人の男の活躍と一生。作者さま曰く、「ファンタジー風味の時代劇&西部劇」。確かに1章はそんな感じ。

山あり谷ありの展開で、何度か割と強烈な鬱展開もあります。かなりの悲劇なので読む人は選ぶでしょう。だけどそれがいい。人生は良いことばっかりじゃない、作者さまの感性に共感しちゃいますね~。普通なら1章の終わりで、めでたしめでたし、なのでは?

主人公の最期まで書ききっているのも好み。やはり幸せな一生だったのかは、死ぬ瞬間に満足できるかどうかで決まるんじゃないかと思いますね。孤独な賞金稼ぎから、慕われる英雄に変わったのを見ると胸を打たれる……

連載

姉妹冒険者物語

734,297文字

姉の「ピエール」は、お馬鹿で単純だけど明るく優しく力持ち。妹の「アーサー」、賢くて腕も立つけど姉以外には少し嫌味を言ったり口が悪い。姉妹が各地を冒険する連作中編。

いわゆる剣と魔法の中世ファンタジーな世界観。だけど、独自の種族を出したり各地の描写が細かく掘り下げていたりと丁寧に書かれていてる。メイン2人も良いキャラしてます。

 

冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた

604,357文字

駆け出し冒険者の頃に片足を失い、故郷のド田舎に引っ込んだ男「ベルグリフ」。野獣を退治したり薬草を集めたりして暮らしていると、山で捨て子を見つけてしまう。娘として育てていると才能を開花させ、1人立ちさせてみると冒険者として大活躍! しかし、各地で魔王が復活しつつあって……?

40過ぎのおじさんと、父親大好きな最強娘「アンジェリン」の2人を中心とする人間関係と戦い。世界設定は割とテンプレだが描写が丁寧。脳内で映像化しやすいというか。登場人物もキャラが立っていて、敵の魔王たちも良い存在感がある。

小説家になろう式のバトルファンタジーとして、かなり高品質に仕上がっている印象。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

非アクションもの

完結

ダンジョンのエレベーターボーイ

43,742文字

都市の地下には巨大なダンジョンがあった。冒険者を送迎するのは昇降機を操作する専門職「エレベーターボーイ」たち。しかし、権力者たちが圧力を強めてきて……ダンジョン関係者の自由は守れるのか?

中世ではなく産業革命以降の近代ファンタジーと言うべき世界観。設定にセンスを感じます。個人的にはもうちょい直接的なダンジョン関係者に話をしぼってる方が好みだけど、こういうのもリアリティがあって良い。ダンジョンに潜るもの、潜らないもの。それぞれの立場と考え方の違い。

ネタバレありの感想

暗黒のダンジョンの底目がけ、エレベーターの籠は恐ろしい落下を続けた。いよいよ暗さはその深みを増し、大地の奥底でうめきを発する地獄へと到達するかと思われる寸前、エレベーターの鋼鉄の箱は減速した。
金属がこすれ、火花が飛び交う。その甲高い音にエレベーターの籠の中の人間の腸がよじれた。籠は骨格を大きくふるわせ、完全に停止する。エレベーターの籠は疲労したかのように、鋼鉄の皮膚に空いた体腔から熱い蒸気を吹き出した。だが、エレベーターの操り手はその白いもやもやしたものに一切かまわず、腕を伸ばしてがらりとエレベーターの籠の格子扉を開けた。

ダンジョンに縦穴エレベーター! 便利そうです。実際、地下10階とかまでいちいちフロアを横切って階段で降りていくのは大変でしょうし。描写も上手くダイナミックな動きと、金属がこすれる音がイメージできますねぇ。

そして、職業名がそのまま呼び名になってしまった男「エレベーターボーイ」と、管理を強めようとする企業組合の対立が話の中心になります。こういう本名以外で呼ばれるキャラって好き。

「まあ、とにかく、企業組合は近いうちにダンジョン管理の改革に乗り出すつもりだ。おまえの力も大いに借りるつもりだぞ、エレベーターボーイ」
「改革か」
エレベーターボーイは不機嫌そうに吐き捨てた。
「冒険者たちはおまえたちがやることを喜ばんかもしれんな」
マスターは唇に薄く笑みを広げると言った。
「例え彼らが喜ばなくても、企業組合がダンジョンから十分に利益を回収することができれば私は満足なのだ」

ダンジョンを題材にしつつも、中ではなく外を舞台にする。これも珍しい方向な気が。個性が光る中編ダンジョンものです。

 

猫と竜

16,649文字

猫達と、猫に育てられた竜の物語。なごむというか、おとぎ話的な雰囲気の作品。

短編なのでサクって読めます。小説家になろうでは長編ばかりが注目されますが、短編も探してみると意外な良作があったりしますよ。

連載

 

エノク第二部隊の遠征ごはん

595,292文字

遠征部隊に配属となった衛生兵のメルは、支給される保存食の不味さに悶絶。エルフの少女が森暮らしの知識と経験を生かし、遠征先で美味しい食事を食べようと奮闘する物語。

遠征部隊の話なので、保存食や現場調達の料理が多め。それでもやっぱり美味しそうで読んでると癒されます。人が楽しく何かを食べてるシーンっていいですよね!

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

全肯定奴隷少女:1回10分1000リン ~頑張るあなたのお悩み相談受付中~

130,258文字

不思議な看板を掲げてたたずむ少女。そのサービスとは悩みを全肯定してくれることだった!? 気分爽快やるき倍増、新米冒険者の少年は成長しながらも少女のもとに通い詰める! 力強く明るい肯定シーンは読んでるだけで気分が良くなります(笑) なかなかの奇作。

ただし少女の正体と過去などシリアスパートもあり。またダンジョンの仕組み・魔法理論なども割と個性的でいい感じ。

ネタバレありの感想

「奴隷少女はあなたのお悩みを全肯定するの!!!!! さあ!!!! 日々のお悩みを叫ぶといいのよ!!!!!」
「うん! 言いたいことがいっぱいあるんだ……!」

あたり一帯に響くような声量で肯定されたシスターさんは、雪崩を打って愚痴をこぼし始めた。

「今日の神殿の仕事でもクソオブクソキングとクソオブクソクイーンの間で生まれたゴミクソの塊みたいなことがあったの! 疲れた! 慰めて!!」
「すごく大変だったのね!!!!! お疲れ様なの!!!!! 」
「あ、ありがとう……! 奴隷少女ちゃんだけだよ、仕事が終わった後に笑顔で『お疲れ様』って言ってくれるの。あたしの癒しは奴隷少女ちゃんだけだよぉ……」
「どういたしましてなの!!!! 頑張っている人を労わるのは人として当然なの!!! あなたは頑張っているんだから、労わられるのは当然なの!!!!!」

う~ん、いい……全肯定してくれる美少女って理想では。私も全肯定してほしい。現実にあったらリピーター続出まったなし。この力強い表現もすばらしいですね。これぐらいのノリと勢いでやらないと、辛気臭い・説教臭い空気になりそう。

また「人の感情がダンジョンを作る」という世界観も面白い。ダンジョンを中心に冒険者の町ができている作品は多いけれど、これは逆のパターン。

ひとところに集まった人間の集団思念と無意識に流れ出る魔力が結びついてできる概念領域こそが、この世にダンジョンとして現出する。人間社会の渦巻く感情の混沌こそが、概念空間であるダンジョンを創出したのだ。
善意は人を潤す資材となって、悪意は人を襲う魔物となる。
戦争などで大量の人員を動員してぶつけあい存在が固着された特殊なダンジョンのような例外を除けば、ほとんどのダンジョンは人の生活する街中に形成される。大都市とダンジョンは、切っても切れない関係にあるのだ。

他の部分の世界観設定も、かなりガチなんですよねぇ。びっくりするぐらい練り込まれてる。人々の集合意識によって勇者にされてしまった男とか、良い味しまくり。

ストーリーもバトル・ラブコメ・成長・謎・シリアスと意外なほどに本格派。一発ネタで終わりではなく物語としても楽しめる。肯定少女に依存していく少年の運命はどうなるのか……(笑)

なんというか作者さまの上手さ・実力を感じますね。すごいアイディアを思い付いてしまう人は、他の部分もすごいってことでしょうか? むしろ他の部分がしっかしりてるからこそアイディアをひらめける? 何にせよ全体としてハイレベルな作品です。

ハイファンタジー

世界観・設定にオリジナリティがあるもの

バトル系

完結

辺境の老騎士

1,116,233文字

年を取った1人の騎士が引退して気ままな旅に出る。しかし、それが世界を救う冒険の始まりに!

老人だからこその経験、自由さ、覚悟。熱く若い主人公が多い中で個性が光る。騎士達の誇り、男の生きざま、世界の謎。独自の亜人など舞台設定にもオリジナリティがあって空気感がいい。

 

ティタン アッズワースの戦士隊

556,567文字

かつて北部の風の中、攻め寄せる闇の軍勢の前に立ち塞がった男がいた。戦士の中の戦士と評された大英雄「ティタン」。闇の勢力が再び強まる時、彼もまた300年の時を超えて蘇る!

戦士たちが求めるのは強敵、そして勝利の栄光と名誉。泥臭く血みどろの熱い戦い。世界観もストーリーもずっしりと重い良質ファンタジー戦記。

 

死神を食べた少女 

335,278文字

戦乱で人々が苦しんでいた時代。お腹が減って死にかけていた少女の前に、大鎌を持った何かが現れる。その結果は……!?

強くて腹ペコな主人公「シュラ」が、国同士の戦争の中で深い考えもなしに大活躍していく物語。出世すれば美味しいものがたくさん食べられる! 不利な状況になっていく血みどろの戦争と、楽しそうなシュラさま御一行が面白い。

長すぎず読みやすい分量。小説家になろうでは古めの作品で、質のいい中編と言えばこれ、って感じ代表格。

ネタバレありの感想

ファンタジーと言っても魔法はほぼ出てこず、血みどろの接近戦。
シュラがとても良いキャラをしていて、敵には容赦がないが部下は大事に。約束は守り筋を通す、好感が持てるタイプの人間性。魔性のカリスマを持ち、

「手当たり次第に殺せ! 誰だろうと問答無用だ! 反乱軍は全員殺せっ!」

死神の号令の下、騎兵達の蹂躙が開始される。武器を持たない民間人は逃げ惑う。貧弱な装備の民兵は抵抗するが、馬上から繰り出される槍に突き刺され、死んだ。
シェラは雑草を刈り取るかのように、敵陣で殺戮を行った。大鎌を左右、水車の如く回転させながら、手当たり次第に四肢を引き裂いていく。勢いは止まらず、陣中程まで一気に雪崩れ込んだ。

シュラの魔性のカリスマと、それに魅入られたシュラ隊の不気味な描写もすばらしいですねぇ。読んでてゾクゾクしてきます。
シュラは決して分かりやすい「ヒーロー」ではなく、人間の一線を踏み越えてしまった化け物である。そしてシュラ隊も外から見ると理解できない恐怖の軍勢と化している。

大鎌を肩に担ぐと、先頭を駆け始めるシェラ。その後を、無言で白いカラスたちが追い始める。槍を斜めに掲げ行進を始める。恐怖の感情がなくなったのだろうか。騎兵達の目から光が消えている。ただ、上官であるシェラの指示に従うだけ。不安の声を漏らすこともない。規則正しく、馬を前へと進めていく。前方の闇を見据えて。

敗残の騎兵達はその全てがシェラ隊から引き抜かれた者達であり、まるで死神に魅入られたかのように、シェラの野営地に一直線に落ち延びてきた。
ヴァンダーは絶句し、背筋を凍らせていた。そんな馬鹿なことはありえないと。敗残の兵が、どうやってこの場所を知る事ができるというのか。常識ではどうやっても考えられない。場所など知らせていないし、篝火など焚く訳がない。目立たないようにジッと息を潜めているのだ。何故? どうして? 疑念に包まれる。
――そして、一番恐ろしいのは、誰一人としてそれを疑っていない事だ。

いわゆる普通の戦記物とは一味違った空気です。主人公たちも正義の味方とは全く言えそうにない(笑)

そして、本作のもう1つの魅力が深みのあるストーリー展開。主人公たちが戦いに参戦し不利な状況を大逆転! 敵の軍勢をぶっ倒す! ……みたいなテンプレ展開とは全く違う。

個人としては最強でシュラは大暴れしますが、基本的に負け戦のままで物語は進行していくんですよ。普通、主人公は勝ち続けるものだけど本作だとそうはいかない。これがすごく好み。
敵である解放軍の指揮官の方が有能で、準備も周到。そもそも反乱は王国が民を圧制しすぎ結果、大義名分と国民の支持は解放軍の方にある!
なろうのスタンダードなら、主人公シュラは解放軍側に参加しているはず。しかし、本作では崩れ行く王国側の兵として戦い続ける。

はたして、その結果は? 解放軍は本当に正義の軍隊なのか……? と思ってたら、やっぱりそうなわけがないという(笑)
重苦しく厚みのある展開。すばらしい。作者さまの感性にめちゃめちゃ共感します。こういう話が読みたかった! 特に、第30話と最終話は締めにふさわしく何度見てもいい。

脇を固めるキャラたちも良い味出してます。みんな大好きヤルダー閣下。個人的にはディーナーさんも好き。
バトルものとしての戦闘描写、軍記ものとしてのストーリー展開、それぞれのキャラクター描写。圧倒的な完成度でしょう。

 

略 妹様へ

299,078文字

優秀すぎる妹が生まれたせいで、両親からも見捨てられ妹のための踏み台にされた男の復讐譚。達人たちがそろう大会はどんな結末を迎えるのか?

文章と空気感に強烈な個性がある。かなり印象に残ってる作品。ただし誤字脱字が多いので、そこは減点。そして主人公である「センセイ」、彼は私の知る限りでもトップクラスに「うらやましくない主人公」です。まったく交代したくならない(笑) あと「無双」ザインザイツさんがお気に入り。

ネタバレありの感想

だからさ今も悩むんだ、どうやったら妹を殺せるって、どう考えても一方的な虐殺しかされない、どうやったて妹を俺は殺せないのさ。
あいつは俺よりもあらゆる意味で勝っている、知恵でも策でも何でもかんでも、あれだけ勝てる要素が無いんだ、勝っている部分は間違いなくあいつと反対の卑屈な心だけだ。これだけは間違いなく勝っていると言える。

あとは性格の暗さ、根性が腐ったところか、全部同じだっていわないでくれよ。嵩増しして少しで勝ってる部分を増やしたいんだよ。あいつと違うって事を明らかにしておきたい。

ここに一人の魔剣と呼ばれた天才剣士の命が尽きた。
いつ剣を放ったかすら分からないその妙技に、もしかすると死体は歓喜していたかもしれない。死体が震わせた痙攣は、武者震いだったのかもしれない。そう思えるほどに、その剣士の意識のある頭蓋からは歓喜の表情が見えていた。
その男は何を突き詰め続けたのか、殺意という目標を消すこともなく、どの境地まで突き詰めたのか。それをきっと死体は問いただしたくて、なによりもう一度剣が見たくてならなかった。もう一度殺してくれと叫ぶように、喜悦にすら変わったその表情は本当に死んでいる存在なのかと言うほど表情豊かであった。

うーん、文章が濃いと言いますか……
設定・物語・キャラではなく、文章そのものに個性がある。そういう作品は多くないんですが、本作はその1つ。ただし誤字脱字が多いので、そこは減点。

物語として見ても各キャラの生きざま、そして死にざまに迫力があります。すごいあと両親の超絶クソ外道っぷりも。でも彼らもある意味では軍神の被害者なんだよなぁ。でも軍神は加害者ではない。

そして主人公である「センセイ」も強烈なキャラ造形。、とてつもない苦労と、自己否定感。心がぐっちゃぐちゃ。復讐譚としてさえも暗くて後ろ向き。なんともすさまじい。

終わり方もねぇ、分かりやすくはないんですよ。軍神を殺さないまま終わっちゃうしなぁ。でも、それがセンセイにふさわしい気はする。

おすすめ度という点では高くないんだけど……しかし、個人的に忘れがたい作品であるのも確か。決して駄作でも凡作でもない。
好きな人には刺さる作風……とも違う気もします。とりあえず読む人によって印象は大きく変わるでしょうね。

 

血塗れ竜と食人姫

167,049文字(本編完結済み) (カクヨム版

殺し合いを見世物とする囚人闘技場にて、王者として君臨する少女「血塗れ竜」。彼女を筆頭に複数の女性から好意を寄せられる青年の運命は……?

出てくるのがみんな高戦闘能力のヤンデレ。迫力の戦闘シーンと熱すぎるヤンデレたちの想い。

ネタバレありの感想

なんで、あんな奴が、ユウキと仲良さそうに話していたんだろう。
ユウキはわたしのなのに。
話し相手なら、私がいくらでもなってあげるのに。
難しい話は苦手だけど、ユウキの話なら聞いても眠くならないから大丈夫。
私は、ユウキのためなら何でもできる。
ユウキが褒めてくれるなら、皇帝陛下だって殺してみせる。
だから、ユウキ。
私だけを、見て。

踏み込み、大上段からの一撃。
右腕は地面に付いている。迎撃はない。
異音を奏で、刃が血塗れ竜の脳天に――

がきん、と。
転がっていた燭台で逸らされた。
手は着地のために付いていたのではなく、これを拾うためだったか。
そしてそのまま方向を逸らされ、腕が有り得ない方向へねじ曲がる。

4人の戦闘スタイルがそれぞれ違うので、バトルものとしてもなかなか高品質に楽しめます。ユメカさんの必殺掌打、かっこいい!。

ユウキと一緒の時の少女たちは本当に幸せそう。だからこそ、他の少女たちには嫉妬と殺意が渦巻いている!
やはり、ヤンデレの大きな魅力は独占欲と流血も辞さない戦い! それがたっぷり詰め込まれた作品と言えるでしょう。

あえて選ぶなら、私はアマツさんが好きかな~。最初は「お? 唯一の常識人かな?」と思ってたら1番やばい奴やんけ! 歪んでるけど、それがいい。

 

夜明けのムジカ

123,339文字  (カクヨム版

300年前の戦争で文明は断絶し、人々は遺跡から資源と技術を発掘して暮らしていた。探掘屋の少女「ムジカ」は、暴走する大昔の自律兵器に襲われるさなか、謎の『人型』自律兵器と出会う。危機を脱するために主人登録したものの、人型兵器なんて存在しないはずであり……?

エーテル! 自律機械! 古代文明! 歌! ロマンが詰め込まれた世界観が貯まらない。こういうのすごい好き。

ストーリーは正統派で完成度が高い。最初は機械ならではの天然ボケを連発する相棒に困り、徐々に距離が縮まり、情報がもれることで陰謀の魔の手が迫る! 無駄の無い文量でハラハラドキドキさせてくれます。

ネタバレありの感想

文字盤の発光度合いでエーテル濃度が分かる多機能時計は、黄緑色の燐光でとどまっていた。
あたりが明るいのも、床や天井に生える水晶に似たエーテル結晶から発せられる光のおかげだ。

エーテルは化石燃料や石炭よりも扱いやすいエネルギーとして普及している。
だがエーテル濃度が高い場所で長期間活動すれば、吐き気や倦怠感をもよおし意識を失うため、結晶が生えている空間では特に注意が必要だった。
とはいえ、現在は安全と言っていいだろう。

そしてムジカは息を吸い。眼前の奇械へ向けて、朗々と歌った。

『我は月 其方そなたは星 共に寄り添うことを願うもの』

韻を踏み、高く低く通路に響き渡るのは、自律人形である奇械へと干渉するための指揮歌リードフレーズ指だった。
特殊な発声法で紡がれる指揮歌にエーテル結晶で作られた変換器が反応し、ムジカの手から淡い緑の光がこぼれる。

3対の翼に抱かれていたのは、美しい人間だった。
年の功は16のムジカよりも2、3歳上くらいだろう。
月の光をより集めたかのような銀の髪に彩られるのは、象牙色の滑らかな頬。
無機質なまでに一切の瑕疵なく整った美貌は、ともすれば女性ともとれる艶を帯びているが、ゆったりと膝を抱える姿勢ながらも骨格は男性のものにみえる。

うおお~! くぅぅぅ~! 世界観と設定がめっちゃめちゃ好みです!
1つ1つのシーンが美しい! 脳内で幻想的なイメージがわきあがる!

もちろん設定だけの小説ではありません。バトルシーンも臨場感がありテンポが良い。序盤から丁寧に書かれており最初から最後まで1本筋でしっかりつながっている。

世界観・ストーリーの両面で高品質な良作。

 

霧の塔、白銀の杭 

109,762文字

空から落ちてきた少女は吸血鬼だった!? そして、それを見つけた少年は機械の体! 吸血鬼×スチームパンク。

ひねりの効いた世界観がとても良い雰囲気を作っている。化け物は金属を嫌う、という設定はすごい好き。ストーリーも王道的なボーイ・ミーツ・ガールだとは言えるが、ダラダラした無駄な部分がなく戦闘シーンは熱い。

総合的な完成度がすばらしく高い良作。文章量としても本1冊分で読みやすいし、とてもおすすめ。

ネタバレありの感想
どんな作品でも最初の部分は重要。冒頭で読者をつかめるか? 序盤で物語に引き込めるか? つまらないと判断したら消費者はすぐに逃げてしまうもの。

その点、この作品にはプロローグからグググっと引き込まれました。ちょっと引用してみると、

 暗く深い地の底に、その城はあった。
幾歳を経てなお朽ちることを知らぬ、最古の王の住まう城。
不滅の異形たちが住まう城。

その城の一室に、ひとりの少女がいた。

(中略)

その日、少女は朝から期待に胸を弾ませていた。
仄暗い地下都市から憧れの地上に出られる日が遂に来たからだ。
彼女がずっと、ずっと待ち望んでいた日だった。

という風に、物語は地下から始まるわけですよ。どうでしょう? なかなかに珍しく新鮮味のある開幕だと思いませんか。「この少女は何者か?」続きが気になって、作者さまの誘導に載ってしまう。

また、2話で最初の戦いが起きるけど、ここでも世界観の工夫によって魅力が増している。再び引用すると、

フリークスは概して金属を弱点とする。

(中略)

途端に、街を囲む防壁が次々に甲高い音を立てて蒸気を噴き出し、傘のように装甲板を展開させる。
露出したその内部では歯車が勢いよく回転し、次の瞬間、胞子のように金属粉を撒き散らした。

吸血鬼には銀が効く、から着想を得たのでしょうが「フリークス(化け物)は金属を嫌う」という設定は良いですねぇ。いわゆるテンプレ的なゲームファンタジーとは大きく差別化できている。

やはり、何かしら「その作品ならではのルール」があると個性が出ます。キャラやストーリー展開だけで独自性を出すのは中々に難しいのでは。
そして金属粉末をまき散らす防衛設備! とても絵になる。漫画・アニメなどでも見てみたくなるシーン。ここまで読んで「この作品は当たりだ!」と確信しました。
世界観に工夫があると第一印象がグッと良くなりますねぇ。

あとは吸血鬼に必要なのは血じゃなくて実は「赤いもの」でありバラの花も補給になったり、吸血鬼は成長しないし忘れない、といった設定も好き。

設定にひねりが効いているのに対して、展開としては王道のボーイ・ミーツー・ガール。少年「エミス」と少女「クラウ」の出会いと成長の物語。
2人とも悩みがあり自分の居場所を探している。交流しているうちに魅かれるようになり、敵に襲われる中で自分の気持ちを知り、覚悟を決め、パートナーとして生きていくことに未来を見出す。

正統派のストーリーこそ作者さまの力量が問われると言えるでしょう。そして、この作品は上手いです。テンポよく違和感がなく終盤は熱く盛り上がる。
過去に縛られていたエミスが師匠の気持ちを理解し前向きになっていくのは、テンプレと言えばそうだけど胸を打たれますね~。
感想欄で師匠が「故人ヒロイン」扱いされてるのは笑っちゃいますけど! 確かに、見方によっては割と「過去の女が忘れられない男」感あるエミス君(笑)

あとは敵キャラもちゃんとしてるのも良い。この作品の悪役としては騎士位「ズェザ」さんと、黒鋼の王「サダク」さん。そして2人とも強く誇りがあり立派。
ズェザさんも言葉使いはチンピラ系っぽいけど、普通にエミス君を戦士として認めてるし。
サダクさんも、なんだかんだ父親としての情と期待はあるっぽいし。悪役が主人公の踏み台扱いじゃなく、ちゃんと1人のキャラとして描かれている作品はいいですよね。

それにしてもズェザさんはサダクさんになめた口をきいてるけどいいのかなぁ(笑) いくら血族が違うとはいえ騎士位が王に古臭いとか言って許されるとは……意外と吸血鬼の世界は縛りがゆるくてフレンドリーな社会だったり?

※追記 作者さまから返事をいただきました。

吸血鬼は成長しないので転化した時点で品性も確定します。
短期記憶レベルでは繕うこともできますが、根本的にチンピラはチンピラのままです。

とのこと。な~るほどぉ。つまりズェザさんは永遠にチンピラであり、サダクさんの方も「敬語がなってないけど、指摘しても無駄だしな~」と諦めでスルーしてると……これはこれで吸血鬼の社会も面白そう。

世界観90点、ストーリー85点、キャラクター70点、総合評価だと100点中82点ぐらいでしょうか。
いわゆるライトノベル的な個性爆発で記憶に残るキャラクターは出てこないので、そこはちょっと薄い? しかし完成度はとても高いと思います。
教科書というか優等生というか、物語に求められていることをきっちり押さえている。世界観で引き込みストーリーで魅せる。

特に、自分でライトノベルを書こうと思っている人はぜひ読んでおくべきじゃないかと。私も昔に少しだけラノベを書いてましたが、作者さまの上手さは尊敬しますねぇ。
どんな小説を書くべきか、どんな小説を「書けるようになるべきか」。お手本になる作品って感じ。

連載

ラピスの心臓

934,107文字

怪物たちが住む灰色の森が広がる世界。人間は高い場所に国を作り、細い道を頼りに交流していた。しかし、やはり最大の敵は人間同士で……

孤児だった主人公「シュオウ」は師匠に鍛えられ強さを身に着ける。軍隊に入ることになった青年の立身出世ファンタジー。

いわゆる主人公最強&ハーレムでなろう系の雰囲気だけど、シュオウは真面目な青年であり嫌味が無い。世界観も面白い設定が色々とあって個性が出ている。お互いに愛情が無いと子供はできない、とかロマンチックです!

なろうのテンプレストーリーを元にしつつも上手く再構築した感じ。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

Elvish

631,767文字

引っ込み思案で内気な人間の少女が、近距離パワー型なエルフ2人に拾われた。人間の武器と知識は、エルフの国をどう変えていくのか? 容赦なしの殺し合い&ラブラブ百合。

「魔法は遠距離攻撃に使うより防御&自己強化の方が圧倒的に効率がいい!」という独自の世界観により、戦いは血みどろ近距離バトル。個性的かつ説得力のある良い設定だな~、と感じますね。

そして、ラブラブで平和な三角関係。3人ともラブラブラブで、いちゃいちゃしたり赤面したり。かなりの頻度で甘く濃密な百合が展開されまくり。

メイン2人のエルフが強すぎて少し読む人を選ぶのと、ストーリーの進行がちょっと遅いのは注意点でしょうか。

 

彩光の艦隊-異世界派遣軍戦記-

212,885文字

1905年、潮岬沖に出現した光の柱。それは異世界への入り口であった。資源豊かな島を領有した大日本帝国は、列強各国とともに開発を進めていく。しかし、異世界の3つの大国による戦争に地球各国も巻き込まれていくことに……

戦車・飛行機・戦艦がファンタジー世界で大活躍! 兵器好きとしては楽しい。また、戦場だけでなく内政と地球側の国際情勢も丁寧に書かれているのも良い。歴史のIFとしてもしっかり考察されています。

 

悔打ちのジョン・スミス

154,645文字

吸血鬼はびこる蒸気の都。両腕を蒸気機関の義手に換えた男「ジョン・スミス」、新しく派遣されてきた凄腕の体術家シスター「ロコ」。吸血鬼狩りスチームパンクアクション

キャラクターたちは中々に個性的。霧と金と血の街「ドルナク」の雰囲気もすごっく魅力的で、戦闘シーンはダイナミックかつ描写が丁寧。すべての要素がバランス良く高水準。

ネタバレありの感想

主人公の両手が義手、これは珍しい設定では。普段は動かない金属義手、ここぞという場面で起動する必殺技! なろうでよくある剣による戦いとは一味違って個性的。

「では、さらばだ」

五指を揃えた。
途端にかきん、という音がいくつも連なった。手首から指先までの関節がロックされた音である。
奥歯を噛みしめジョンが踏ん張りをきかせると同時、左腕の深いところでまたも、どるんと低い音が轟いた。
雷電エレキテルが特別な経路を辿った。
機関の鼓動が広がった。
金属の震えと軋みが一点に集まった。
内部の核が瞬時に赤熱――注入されていた水を弾けさせ、ボンベ内の圧力を限界まで高めた。
ジョンが右手の剣を離し腰を切る。

「――《杭打ち》」

蒸気の暴力が咆哮した。

肘の噴射孔から解放された蒸気がジョンの後方へ膨れ上がり、重く空間を揺らす。
凄まじいまでの推進力を得た義手の一撃は、傍目には銀の光しか残さない。
内旋させ捩じりこむ左の貫手は男の防具へ中指から順に潜り込み、容易く向こう側へ突き抜けた。

う~ん、かっこいい! 絵になりますねぇ。

また、作者である留龍隆さまは舞台設定にも定評があります。本作の舞台、灰と蒸気の町「ドルナク」の描写も何とも素晴らしい。

止み、溜められていた大気の波が、轟ごうと通りに押し寄せ溢れた。

びりびりと窓硝子が震える。けたたましい音を引き連れて、灰色の暴風が外を流れていく。
通り雨のように瞬間的に訪れた風は、外のすべてを揺らし震わし破滅的な音色を響かせた。
しばししてから。
通りにつむじ風だけを残し、灰色は去っていった。
静けさが一瞬あって、次にばたんばたんと窓の開く音。色々と物を外に干していた住人たちが、馬鹿野郎、クソが死ね、と次々に悪態を吐き散らす。
室内に、濃いスモッグの臭いが少しずつ入ってきていた。またスピーカーから、『ささ産業区画のの洪煙ごうえん排出はは終わりましたたた 速やかなな撤収をお願いい致しますす 繰り返しますすささ産業区画の……』とエコーがかった声が流れていた。

ごうん。
ごどん。
ジョンたちの立つ大舞台が、重く軋んで持ち上がっていく。
大断崖の絶壁に、上等区画まで垂直に伸ばしたレール。この溝に沿ってまっすぐ、この大舞台は昇っていくのだ。
ぶしゅうと辺りを取り巻く蒸気の白。大舞台の真下にある炉でくべられた石炭が燃え盛り、動力機のタービンを回し、ベルトチェーンとシックワイヤーを幾重にも張り巡らして吊るされたこの場を引き上げていく。
この昇降機がなかったころは、大断崖を大回りして一日がかりで上等区画へ向かわなければならなかったのだという。進歩はいいものだなとジョンは思った。

「わ……」
「ん。ああ、景色か」

感嘆で言葉を飲み込み、黙り込んだロコの視線を追ってジョンは言う。
蒸気が晴れ、ある程度の高さまで昇ると、ここからは街の全景が見渡せる。
右手へと蛇行していくロンサ川、それに巻かれるかたちで広がる産業区画とその高い障壁。
左手からは下等区画の高層住居群が並び、針山のようなそこを過ぎるとタウンハウスと平屋がガタガタと立ち並ぶ地区へ。
正面まっすぐを見据えれば下等区画と貧民窟の境界がはっきりしており、そこからはあばら家と廃屋立ち並ぶ混沌の図だ。その、最果てには曲がりくねって伸びてきた川を受け止める最終処分場がある。先は大河に繋がり、海へ往く。

いかがでしょうか。この存在感! すばらしい表現力! 小説家になろうでは中世ヨーロッパ風の世界観が多い中で異彩を放ちますね。

キャラ、ストーリーも重要だけど個人的には物語の舞台そのものにこだわってくださる作者さまは好感度が高い。
個人的に、舞台設定ついては小説家になろうでも最上位に魅力的な作者さまだと思ってます。

もちろんキャラクターたちも魅力的。主人公ジョン・スミスは両腕を無くした暗い過去を背負っているし、ヒロインであるシスターのロコも謎に強くて秘密がある様子。他にもヤンデレな天才発明家などなど、灰色の町にふさわしく訳ありで癖のあるキャラばかり。

作者である留龍隆さまは割と長く小説家になろうで活躍している方。経験の蓄積があり、すべての要素のレベルが高い。
作者さまの趣味とこだわりが感じられる、本格ライトノベルです。

 

最強の騎士はウサギになりました。

117,979文字

恐るべき魔王は倒された。しかし呪いによって、騎士たちは異形の姿へと変えられてしまう。リーダーだった男は、もふもふでふわっふわな、真っ白いウサギ「ピョンスロット」に! 聖剣までもニンジン「キャロンダイト」に変化。

うさぎとして暮らしていたある日、魔女だった継母に国を奪われ命を狙われるお姫様を助けることに。だけど、彼女は見た目も性格もゆるふわ。メルヘン・ファンタジー・バトルアクション。

ゆる~い雰囲気がたまらない。ニンジン剣で戦う、もふもふ白うさぎ。想像すると超かわいい!

ネタバレありの感想

私は背負っていたニンジンを構えると、かじった。
うん。
聖剣キャロンダイトは、今日もいい味をしている。
キャロンダイトは聖剣だから、齧っても再生するのだ。
うーん、無限機関。

『ウサギです!! ウサギが、真っ白なふくろうに乗って……乗って……? なんか頭を掴まれて、毛皮とかぐにーっと伸びてます!』

わたくしも、空を見ました。
白いフクロウにぶら下げられた、一羽のウサギが、そこにはいたのです。
彼は、背負った大きなニンジンを抜き放ちました。

「わが名はピョンスロット!! せいぎのきし!! とーう!!」

一人、また一人。
カボチャの兵士を打ち倒す。

『馬鹿な! 馬鹿な、馬鹿な! そのニンジンは! お前の身体は! どうして我々を倒すことが出来るのだ!!』

最後に残されたカボチャ兵士の隊長が叫んだ。
私は彼に向けて、必殺の一撃を放ちながら応えた。

「やさいがウサギにかてるものか!!」

この空気感……良い! 癒されます~。もふもふで強くて優しいピョンスロット様がステキすぎる。ギャグセンスもあり笑ってしまうシーンも多数。キャロンダイトって食えるの!? お姫様など他のキャラも絶妙にゆるくて魅力的。
まったり読めるメルヘンな物語です。

非アクションもの

完結

夢の旅人

473,117文字

読書が趣味の少年、「ラドゥー」が出会った不思議な少女。彼女に連れてこられたのは夢の中!? 様々な世界をめぐる少年の冒険と戦い。

主人公のラドゥー君の性格が中々に面白いし、夢の世界のみなさんも良い味してる。

 

ユニエの森の物語

235,156文字

森の教会は戦争孤児である6人の少年少女たちが住み、血はつながっていないが兄弟として生活していた。長女「リーザ」は、ある日長男「シャーロ」に家を出ていくように言われ……!?

少年少女の苦労と成長。とても現実的な生活と商売が展開されます。シャーロ君まじ有能。魔法もモンスターも出てこず、ファンタジーというより近世ヨーロッパの話を見ている気分? 派手な展開はないんだけど、すごくリアリティを感じる。なんというか文章が上手い。

後半に入ってからの不穏な情勢もいい。身の回りの生活は良い方向に進んでるのに、それとは違うスケールで動いている国際情勢が幸せを壊しにくる。終わり方も純粋なハッピーエンドとは言いづらいんだけど、その分だけ物語の続きを想像せざるをえませんね。

 

玉編みと彫金師

169,353文字

彩玉師、それは様々なものから色と力を吸い上げ美しい玉を作る特殊な職人。相棒となるギンギツネの導きによって腕を磨いていくのだが……

主人公の少女「リト」は、半人前の彩玉師。ある日、急逝した祖母が領主との契約を残したまま他界したことを知らされる。納品できなかったら、違約金に加えてリト自身も拘束されてしまう!? 逃れる方法はただ1つ。幻の彩珠『嘆きの青』を編むこと。

読みやすい分量で上手くまとまっている。彩玉師とギンギツネを中心とした世界観がいい感じ。最後の落ちが予想してなくて感動してしまいました。分かる人には分かるんでしょうか。私は推理小説とかも読まないからなぁ。

ネタバレありの感想

玉の描写および制作シーンが美しい。

手のひらを上蓋に、底にもう片手を当て、あの青い花と絡めるように水晶の種石を器の中で回していく。
チリチリという、引っ掛かりのある音が、やがてジーっと器の底をなめるように動き始める。

歌うようなギンギツネの呼びかけにこたえ、時折は動きを止めながらリトは同じ動作を繰り返した。

小指の先ほどの小さな玉。
それは確かに青い花の色を宿していた。
澄んだ青の彩玉だ。
裏腹に残された枯れ花が、その命をあまさず玉に分けたことを物語っていた。

ギンギツネの声を聞きながら物事から色を集めて玉にする……実にファンタジーでステキ!

ギンギツネのサポートが必要なのが良いですね。人間だけでできちゃうと「技術」って感じだけど、ギンギツネと一緒に作ることで神秘性・幻想性が増している。

本筋のストーリーはやや定番すぎる気もしなくもない。田舎から出てきた少女が、都会で一癖ある青年と出会い、2人で旅をしていき、仲良くなり、危機におちいり……王道でしょう。

しかし、最後の落ちはなんとも美しく、見事です。落ち、という点では今まで読んできた小説の中でもトップクラス。嘆きの青……なんて素晴らしいネーミング。最期まで彩玉師のそばを離れなかったギンギツネが満足の中で逝ったときに、青い彩珠が残される。彩玉師は相棒との別れを嘆くわけだけど……その青さの理由はギンギツネの幸福にあり悲しみではない。むしろ最高の感情だからこそ、最も美しい。すごくすごく魅力的。

読みやすい分量でしっかりとまとまった作品です。

 

扉繋ぎのウォルト

155,238文字

独立した空間が扉によってのみ接続されている世界「エル・ワトランディ」。記憶を失う代わりに行きたい場所に扉をつなげる異能力もつ少年「ウォルト」と、有名な魔術師「ラギ」の2人旅。

幻想的な世界と、そこで暮らす住人たちの連作短編。絵本のような風景が頭の中で広がります。どの場所も、とても美しく魅力的。しかし、話によっては重い展開も。理想郷ではなくキャラクターにとっては現実なんですね。

全体的に少し描写が薄く説明が足りてないのが気になるけど、エル・ワトランディは旅してみたくなる世界。

ネタバレありの感想

感嘆の声など出ない。声にならない。
ついさっき、無数の星を見たなどと思わなければよかった。
何しろ無数より多い数の表し方を知らない。無数の二倍はなんと言えばいいのだろう?
空がもう一つ、眼下にあった。
眼前に広がるのは湖。対岸が見えないのはそれだけ大きいからか、それとも暗くて見えないだけか。
その終わりの見えない湖。
明鏡止水。揺らがない水面は鏡となって満天の星空をもう一つ眼下につくりだす。

「あの釣糸の先を見てろよ」
言われてウォルトは水面に視線を向ける。
しばらくして引き上げられた釣糸の先には、見事な輪郭の細い月が引っ掛かっていた。
空に浮かぶはずの――月が。
困惑して視線を空にあげると、月は変わらずそこに浮かんでいた。
「あれは水面の光を光凝固剤で固めてとってきただけだ。月そのものじゃない」

湖に映った星の光を吊り上げる、なんとロマンチック! 他にも巨大な図書館の塔、はてしなく広がるひまわり畑、井戸の底にある森、雪の中でもバラが咲き誇る館などなど……どこもステキ。

扉によって別々の場所がつながっている世界、楽しそうです。あと住人たちは人間だけでなくしゃべる動物も多いみたい!

でも、ドアが途切れると孤立からの餓死まったなしという……6章「埋めるまで」は中々にえぐい。

私の好きなエピソードは光採りの森、向日葵畑で待ってる、緑の井戸、歌うオーケストリオン、秘密の花園に咲く、でしょうか。
キャラ・ストーリーの両面で少し描写が薄く、説明が足りてないのがやや気になるところ。だけど、エル・ワトランディは旅してみたくなる魅力的な世界です。

 

鷹の余白

140,821文字 (カクヨム版

嘘とはったりと特殊な『目』で物事を解決する魔女「クロ」と、彼女にどれだけ邪険にされてもめげない魔法使い「ユーイン」の物語。

クロさんがかわいい。ミステリアスで、おちゃめで、辛いもの好き。ストーリーも連作短編で良い感じ。しみじみとする話あり、緊迫のバトルあり……どれもしっかりファンタジーしてる。

ネタバレありの感想

「んじゃ、俺はそろそろ帰るかな」
中天にあった太陽がかたむき始めた頃、ようやく金髪の魔法使いは席を立った。彼は残っていた茶を飲み干し、しかめっ面になる。
口に合わないのなら無理をして飲まなくてもいいのに、と毎回魔女は思うのだが、律儀な青年は出されたものを絶対に残さない。実はほんの少しずつ辛味を足すというイタズラをしているのだが、彼はいつ気づくだろう。

魔女が小さく囁ささやく。
「――愛情表現ですよ」
魔法使いは瞠目し、凍りついた。魔女の瞳から視線を逸らせぬまま、口を開いて、それきり停止する。
気を取り直すように唇を動かしたが、声は出ない。
いったん唾を飲み込んでから、ようやく彼は言った。
「……、冗談」
「冗談です」
「俺今かつてないぬか喜び」

クロとユーイン、2人の関係がとてもいい。ユーインからアプローチされまくって、悪い気はしてないクロさん。
でも、素直に気持ちを伝えることはない。ミステリアスな雰囲気を守ったままイタズラを繰り返す……グッときますね!

ストーリー内容なら個人的には3章、6章、8章辺りが好きでしょうか。連作短編って読みやすくていいですよね。
恋愛要素でもファンタジー要素でも、何とも空気感が良い作品。

 

森蝕時代のオーク鬼たち

114,104文字

意思を持ち巨大な樹海と化したマンドラゴラ「森の王」、その恵みを享受し崇め共生するオーク鬼たち、そして死の森の拡大に対抗する人間……連作短編の群像劇。

剣と魔法のファンタジー……かと思っていたら、空間・時間の両面で加速していくスケール感がすばらしい。SFとクトゥルフ神話のエッセンスを取り組みつつ、壮大な物語に仕上がっている。

ネタバレありの感想

まず、植物であるマンドラゴラを中心に据えているのが個性的で良い。多くのファンタジーだと動物系のモンスターばっかり注目されますからねぇ。

「オークとマンドレイクの同時侵攻だと?」

その報告を受けて、大佐は急いで砦の上へと登り、遠眼鏡でその様子を見る。
遠眼鏡の先では、目に見えて分かる程の異常な速度で森林が広がっていっていた。
まるで時間を加速したかのように樹々が育ち、森の領域が広がって押し寄せてきている。

――『森蝕』である。

森と開墾地の境では、前進する騎士鎧姿の樹木モンスター――森の尖兵と呼ばれるモンスター、マンドレイク・ナイトだ――が、次々に膝を折り、そこから根を張り枝を広げ、みるみるうちに巨大な樹木に姿を変える。
マンドレイクたちは、ニンゲンが砦の周りに開墾した土地を、こうやって森林化しながら制圧前進しているのだ。高速で森林化しながら前線を押し上げるこの手法は、マンドレイクの侵攻の常套手段だ。

意思を持ち、拡大し続けようとする巨大な森と戦う。これは一般的な動物系モンスターと戦うよりも圧迫ありそうです。

そして、個人的に、この作品の本領発揮は7話「ラストマンとオーク鬼」からだと思います。ここからのスケールアップ、話の広がりはすごい。初めて読んだときは困惑しつつもワクワクしました。全球凍結とか規模がすごい!

私はこういう「ファンタジーに見せかけてSF要素あり」とか「小さな話から始まって時代を超えて拡大していく」タイプ、好きですね。最後は別の星まで狙うとは……ほんとスケールが大きい。

彼らは種を蒔く。
いつかここではない場所で、自らの血脈を継ぐものが生まれるようにと祈って。
この宇宙を自分たちの――いや、森王の因子で犯すのだ、蝕むのだ。彼らの神の意志に応えるために、広大無辺な宇宙へと彼らは踏み出したのだ。

最終話の締め方も印象に残ってますねぇ。地球に飛んで来とるやんけ! しかも「物理法則は宇宙内での場所によって変化する」という説明も斬新。ファンタジー別世界に見せかけて同じ宇宙だったとはおもしろい展開。良い発想してる作品です。

 

園丁の王 

109,344文字

傭兵「オルソ」は、戦いに疲れ平和な稼業に就くべく母国へ舞い戻った。庭師になることを希望し役所の窓口へ並んだところ、手違いが重なり天才造園家「グラーブ・ヴァンブラ」の元へ弟子入りすることに。グラーブは無表情で暗い男、辛い過去があるらしい。さらに、ただの庭師ではなく……?

中世~近世ファンタジーだけど、魔法的なものより人間関係がメイン。登場キャラは少ないんだけど、その分だけ主要キャラにとても厚みがあります。

空気感がものすごく好み。戦いも冒険も恋愛もない。良いことだけじゃなく辛いことも起きる。派手で分かりやすいストーリーがあるわけじゃない。しかし、なんというか「人生」が感じられる作品。

ネタバレありの感想

私ごときの文章力では紹介しづらい作品ではあるんですが……まず、作者である「井出有紀」さまのセンスと個性が光るポイントが造園を題材にしたところ。
造園とは、文字通り庭を作ること。西洋の幾何学的で豪華な庭園の数々はみなさん知っているはず。計算された配置、刈り込まれた草花、噴水や彫像……
あれって巨大な芸術作品みたいなものでロマンですよね。そのくせ、意外と造園をメインの題材に書かれた作品って少ない印象。珍しい題材が出てくると読者としても新鮮な気持ちで読み進めていくことができます。

また、ファンタジーと言っても本作にはモンスターとか派手な魔法は出てきません。代わりに登場するのは、敷き物の中にある不思議な異空間。

彼の上空は暁だが、右手は真昼の明るさで爽快に晴れ上がっている。その前方では雲の合間から稲妻が落ちており、左手は夜、その隣が夕暮れといった具合である。目まぐるしく広がっている空からは、しかし不思議なことに混沌よりも自由な秩序を感じさせた。
地上は大小の庭園だらけである。

想像するとなんとも美しく楽しい! 非現実的な風景こそ、ファンタジーの本領でしょう。

そして、「庭は製作者の心を反映している」という設定で、庭の描写を通してキャラクターを描くのことに繋げているのが上手い。
いやまぁ、物を見れば作った人が分かる、ってのは現実でも当たり前のことなんだけど、そこをしっかりキャラの掘り下げに使っているのが自然で良い感じ。

主人公は元傭兵の「オルソ・マイラーノ」だけども、この作品は実質的に天才造園家である「グラーブ・ヴァンブラ」の物語だと言える。話のほぼすべてはこの1人の男を書くために使われています。
このグラーブさんが実に存在感があり良い味をしている。1-1からグラーブさんについての描写を一部省略しつつ引用すると

年齢は三十八、肉薄な相貌は青白く、後ろへ撫でつけられた短い髪は黒く、同じ色の瞳には全く光がなく、いくたりとも生気が感じられない
中背の痩躯は、常に黒か、限りなく黒に近い暗い色の衣装をまとっている。右の袖が空虚に垂れ下がっているのは、事故により右肘から先を失ったためだという。

華々しい庭園とは真逆。無表情で、口数も少なく話し方もそっけない。他のキャラクターとは明らかに異質であり、第1印象からググっと読者の興味を引いてくる。作者さまの力量でしょう。

そして、話が進むにつれて彼が常に悩み苦しんでいることが明らかになってくるんだけども……その様子がすごく共感できるというか現実味があるというか。

例えば、娘として扱っていたプルシナが亡くなった後の言葉。

「君の目から見て、私はプルシナへ愛情を注いでいたかね」

はたして自分はちゃんと娘を愛せていたのか? 都合のいい存在として利用していただけじゃないのか? 彼は、そういう疑問を持ってしまうわけで。

そうやって悩むこと自体が愛していた証拠だろうと思いますが、愛ゆえに悩まずにはいられない。そこに作者さまの人間心理の高い描写力があるし、そこまで悩んでしまうグラーブさんに魅力を感じる。

というか、プルシナが跳ね飛ばされるシーンは読んでて「!?」ってなりましたよ。まさかプルシナちゃんが……前振りが無い突然の事故。リアリティというか、作中のキャラたちと一緒に読者も驚いてしまう。悲しみが印象に残ります。

また、もう少しグラーブさんの過去と直接的に関わるところでは、箱庭の親方から

心の穴を埋めることはできない。確かに庭は製作者の心を映しているが、だからと言って庭を作り変えても心は作り変えれない

的なことを伝えられる場面が。

しかし、この親方はクラーブさんの心の一部であり、自分でも分かってたこと。
彼自身も

「思っていただけだ。潜在意識で無意味と知りながら、私はずっと無駄な作業を続けてきたのかと。しかし、他に何ができた? 残された時間は少ない。今さら何を始めろと?」

と独白している。

そうなんですよ、賢いグラープさんが気づいてないはずがない。でも「しかし、他に何ができた? 残された時間は少ない。今さら何を始めろと?」と先に進めないでいる。
無意味と分かっていながら、それに頼ってしまう。他の選択肢が見つけられない。私も共感しちゃいますねぇ。

けっきょくクラーブさんは最後まで悩みと後悔から抜けだせないまま逝くことに。とても心打たれる展開。1人の男の失敗と苦悩の半生、10年以上ひたすらに過去を見つめる日々、何か心の穴を埋めようと必死だった生活……重く悲しいけれど、それがいい。深みのあるキャラクターです。

まぁ死後の魂は救済されたことが後になって分かるので、読者としては安心できるんだけども。この描写がないと読後感が辛くなりそう。

もちろん、この作品はクラーブさんだけではなく、主人公であるオルソさんの方も良い味してます。奥さんをちゃんと見ずに逃げられちゃう展開、私は好きですね。かわいそうだけど男の失敗としてはありがちで笑ってしまいます。

そして娘であるパッセラちゃんに

「それに、あたしがついてったら、おとうさん一人になっちゃうよ」

と言われて、ようやく家族・家庭の存在を実感する。ここまでは結婚してみたものの結局は流れ者の気分だったじゃないかと思ってみたり。
最終章を読むに、なんだかんだ良い父娘関係を築いていけそうでよかったよかった。

10万文字=だいたい本1冊ぐらいの分量で、まったくダラダラした展開がない。読み終わってみると、クラーブさんもオルソさんもそれぞれの人生を歩んでるなぁ、としみじみする。なんとも読後感が深い作品です。爽やかな気分になるわけでもないんだけど……妙に満足しちゃいますね。

 

ROBOT HEART絵本風シリーズ

連作短編

人間と機械の物語。「絵本」風のタイトル通り文章中に絵が入っているんだけど、これがすさまじくクオリティが高い。めちゃくちゃに良い。なんとも味がある……

童話的なストーリーもしっとりとしていて味わい深い。私的には3話が好みでしょうか。

ネタバレありの感想

ある日、博士はロボットに、突然こんなことを言い出した。
「キミはよく働いた。長い間、働いた。
不満も文句もなんにも言わず。
お礼にあげたいものがある。
私はキミにココロをあげたい。
私がココロを作るから。キミが喜ぶ素敵なココロを」

良い話です……

連載中

空飛ぶ魔女の航空会社〈Flying Witch Aviation Company〉

288,657文字

かつて『冬枯れの魔女』として畏れられた少女と、ベテラン操縦士。2人は飛行機に乗って各地を巡り色々な人々に出会う。少女の過去とは? 世界はどうなるのか?

第二次世界大戦時のヨーロッパ的な国々を舞台に展開される近代ファンタジー。始まってしまった大規模な戦争と、そんな状況でも続く人々の生活。空気感がものすごく良い。映画を見ているように頭の中にイメージが広がります。

ヒロインが2つの言語を使い分けることで、クールな部分と心優しい性格の2面性をものすごく上手く表現しているのも好み。こんな方法があったとはねぇ、すばらしいアイディアですわ。

全体的な質がとても高く、「小説家になろう」の中でもここまでドキドキワクワクさせてくれる作品は珍しい。名作。