現代ファンタジー作品26選! (web小説)

日常社会の中にある秘密! 魔法少女! 悪魔! 天使!

=世界観が良い!

=特に管理人のお気に入り

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現代ファンタジー

完結

余命六ヶ月延長してもらったから、ここからは私の時間です

254,743文字

魔法が使える者だけが通える、特殊な学園に強制入学させられた主人公「三葉」。しかしイジメなどの辛い生活、挙げ句の果てに何者かに階段から突き落とされ命を落とす。そんな彼女に天使が言う「それなら後六ヶ月だけ生きてみる?」と。

残りの時間を悔いなく生きると決めた少女の現代学園ファンタジー。主人公「三葉」の心理描写が丁寧に書かれている。勇気を出したことによる変化、増える仲間、見えてくる謎と秘密、別れの悲しみ……王道展開だが無駄なくきれいにまとまっている。

少女漫画的な雰囲気があり、どちらかと言えば女性向き? 犬のポチ太郎がかわいい。

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おひとりさまでした。 ~アラサー男は、悪魔娘と飯を食う~

220,295文字

「速見誠一郎」29歳。独身、恋人なし。趣味は食べ歩き。そんな彼はある日突然、偶然にも魔界の悪魔を召喚してしまう。アラサー男が悪魔娘と飯を食う、たったそれだけのお話。

サラリーマンが美味そうな店を見つけて、飛び出してきた悪魔と一緒に食べる。あの有名作のタイトルを借りるなら「孤独じゃないグルメ」と言った雰囲気。ご飯を一緒に食べてくれるだけの美少女、確かに男の理想かもしれません……

作者さまの実食を元に書いているのでしょう、味・食感などが非常に細かくリアリティがある。読んでるとものすごく腹が減ります。

ネタバレありの感想

かぶりついた鶏肉が弾け、中からとろりとしたチーズが口の中へと溶け落ちた。鶏肉のなめらかな舌触りをチーズの油分が後押しする。口の中で衣とチーズと肉が混ざり合い、なんとも言えないハーモニーを奏で始めた。

美味い。なんど思うか分からないが、美味い。それぞれにそれぞれの旨さが存在し、そのどれをも味わえる愉しみ。愉悦そのものだ。

「うーん、やはり中入れのチーズカツは最高だな。一番好きかもしれん」

自分の方のセットに付いてきていた角煮丼を、ぱくりと咥えた。甘辛い味と共に、牛タンの旨味が口に広がる。
こちらは、やや水気を切った感じの美味しさだ。肉の繊維が、はっきりと舌を感じさせてくれる。塩焼きとも、シチューとも違う美味しさだ。

噛みしめる美味さと、口の中で解ける柔らかさ。歯ごたえはしっかりと残しつつ、煮込むことによる美味しさも存在する。
食感的には、ちょうど塩焼きとシチューの中間のような面白さだ。

ああ……お腹が減る!


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魔法使いと行く海外旅行

198,616文字

ちょっと不思議な女の子メテムと、どこにでもいる普通の青年。そんな2人が地球各地を巡る。南アジア、東ヨーロッパ、そして中南米……外国には不思議で面白いものがいっぱい!

作者さまの実体験と写真をもとに書かれる、超本格旅行記ライトノベル。またはライトノベル風の旅行エッセイとも言えるかも。

また、メテムの設定と魔法も良くファンタジー要素も蛇足にならずしっかり機能している。さらに作者さまのイラスト付きの回もあるけど、これが上手くて絵柄もやさしくて良い。

ネタバレありの感想

ここは東欧にあるハンガリーは首都ブダペスト。
先日、日本からモスクワを経由してたどり着いた旅の最初の都市だ。
そして今いる場所、それはハンガリーといえばここだと言うべき、そう、温泉だ。
知らない人もあまりいないと思うが、ハンガリーは日本に負けず劣らず温泉大国として有名だ。
国内に無数の公共温泉があり、国民にとっても身近な存在だ。
その中でも格段に有名なのが、ここセーチェニ温泉。

するとそこには温泉に浸かりながらチェスに興じている老人たちがいた。
そう、先程説明出来なかったが、セーチェニ温泉が有名なのは、温泉をしながらチェスが出来るという独特の風習の為だ。
温泉の壁際では至る所で皆がチェスをしている。
この晴天の気持ち良い中、温泉に浸かりながらするチェスというのはきっと格別気持ち良いのだろう。
僕はチェスのルールは知らないけれど、楽しそうにしているのを見てるだけで気持ちが伝わってくる。

各地の風景が読んでて臨場感たっぷり。

また、良い感じに現実とファンタジーが融合してます。「こんなことできたら便利だろうな~、楽しいだろうな~」という空想が違和感なく物語に組み込まれている。

メテムがかけてくれた魔法、シルフィードというらしい。
何やら重力にある程度逆らって進める魔法のようだ。
しかし使い慣れているメテムと違って、初めての僕にとってはもう生きた心地がしない。
誰かに見られてはいないかと最初は気を使っていたが、今はもう登るのに必死だ。
アイバーチェーンに足をつき、また蹴上がる。
すると普通のジャンプとは違い大きく勢いがつき飛び上がり、そしてまたゆるやかに落ちていく。
それからまたアイバーチェーンを蹴るという感じだ。
橋の中央で基礎部分に跨っていた若者とはわけが違う。
正真正銘僕たちは立入禁止の主塔の屋向かって進んでいるのだ。

う~ん、ほんと理想って感じですよね。魔法使いの女の子と世界旅行! ロマンと楽しさがたっぷりの良作。

 

鍵と魔法と給料泥棒

鍵と魔法と給料泥棒(冬森灯) - カクヨム
「仕事?それより飯だ」凸凹コンビが繰り広げるおいしいファンタジー

145,759文字

ギリシャ神話の神々や魔族の住む”最果て”と、彼らにとってはリゾート地である人間界。2つをつなぐ「扉」を管理するのが公務員「コンフェッティ」の仕事。しかし、この男は仕事より食べることばかりを優先し……フランスを舞台に展開する現代ファンタジー×おいしいもの!

食べ物についての描写がとても具体的で、超うまそう。食べ物系web小説の中でも特にレベルが高い印象。

また、芸術家の情報がたっぷり盛り込まれていて、こちらも読者の想像力を刺激してくる。確かに美しい芸術作品って、異界につながってそうな雰囲気ありますねぇ。

 

おにぎりスタッバー

https://kakuyomu.jp/works/4852201425154948902

141,527文字

男を食ってると噂の女子高生と魔法少女。変な奴らが戦ったり普通に生活したり。色々と明らかになりまくる意外な事実。

軽妙で女子高生っぽい語り口がとても面白い。やや読みにくく人を選ぶかもしれませんが、すばらしき個性。

 

あなたの健康を損なうおそれがあります

あなたの健康を損なうおそれがあります(作楽シン) - カクヨム
やさぐれ中年と、暴走マイペース女子のバディ小説

112,751文字

タバコの煙で輪っかを作る方法、家に帰ってトイレで試してみたら爆発が起きて!? 三十代で特殊能力に目覚めた男の怪しい調査会社への転職、そして相方は暴走マイペース女子!

連作短編の現代ファンタジー。終わり方がややあっさりしすぎではあるけど、全体的に上手くまとまっていて非常に読みやすい。

 

その場所へと辿り着く様々なルート

そこに辿り着く様々なルート(悠木 柚) - カクヨム
中編作品集

111,307文字

少年と少女の成長、問題、妖精との出会い、そして事件。自由に生きてきた女の満たされない日常、周りにいる不思議な人間たち、幸せなひと時、悲劇。異なる主人公たちを書く連作中短編。

非常に独特の空気感があり引き込まれる。出てくるキャラクターたちも色々と問題を抱えていて、かなり癖が強い。ギャグセンスも高くカオスな場面も多数。かなり笑いました。シリアスなはずなのに容赦なくボケが連発されていたりもシュール。web小説にしてはかなりエロ表現がきついのと、途中で鬱展開があるのは注意。全体的に読む人を選ぶ作風。

ネタバレありの感想

「たっくん、ミキとあそぼー」
「いいけど遊んで欲しかったら『イイコトして』って付けないと駄目だぞ」

「イイコトしてー?」
「そう。『たっくん、イイコトしてミキとあそんで』言ってみて」

「たっくん、イイコトしてミキとあそんでー」
「よし、忘れないように復唱だ! せーの」

今思い返しても消去してしまいたい過去ベスト3に入る。しかし当時の僕は自分の欲望に忠実で、それ以外にも幾つかのワードを教え込んで何度もミキに復唱させていた。

リモコンのスイッチを入れてテレビをつけた。
毎週この時間は実写ドラマの『デュラれもん』を欠かさず見ている。

1万年後の未来からやって来た対戦車凡用猫型決戦兵器、コードネーム『デュラれもん』と、そのマスターであるラビ太が人類を浄化して行く物語だ。

オープニングテーマが流れている間に、カップ麺用のお湯を沸かしておこう。
えーと、ケトル、ケトル……あった。

♬ あんなこといいな、出来たらいいな、などと本気で思っているのか!

実に愚かしい。

夢は叶えてもらう物じゃない、自分で掴み取る物だ。

不思議なポッケ?

それはこの亜空間ディメンションシステムの事か。

ほう、空を飛びたいのか?

ならばその願い叶えてやろう。

但し、お前の命と引換えだ。

奇跡の代償は等価交換だと言うことを忘れるな。

アンアンアンとっても大好き、だと……それは神に誓って言えるのか!

お前はまだ本当の愛を知らない。

いいか、よく聞け。

俺の名は……デュラれもん…… ♬

実写ドラマ「デュラれもん」(笑) 見てみたい……! あとグーターの正体が衝撃的すぎる。モザイクがモザイク部分だと……!?
生きにくさ・生命の危機、みたいな流れと爆笑ギャグが同時進行していたりしてすごいセンス。誘拐犯との会話とかキマってますよ。

しかし1章と2章の雰囲気が違いすぎてすごい。多彩な人ですなぁ。そして、ガチで悲劇。1章の3人が!? 読んでてビビりましたよ。なんてこった……

ちなみに私が1番笑ったのはあとがき。発想が天才すぎる……! 内容もカオスすぎだし、絵文字を使うのはweb小説でも見たことなかったです。最後に明るいボケがあるおかげで読後感はべたつかない。見事な配置。
全体的に作者さまがただものじゃないですね。

 

落花製魔法少女

104,606文字  (なろう版

2年前に死んだ姉のあとを継いで主人公は魔法少女となる。物理的・精神的な「落下」をパワーに変換。はたして過去に何があったのか? 恋と愛、そして夢と希望。

儚く悲しい物語。表現力があり空気に引き込まれ、それぞれのキャラクターの思いが強く伝わってくる。1つ1つの場面が美しく幻想的。タイトルも内容にあってて見事。序盤からしっかり考えられており、最終話まで行ってから読み直すとまた深く味わえます。

ネタバレありの感想

少女がいた。

ぎょくの中に閉じ込められたかのような透き通る青空の下、雲一つない代わりに地のすべてを覆い青空一面に張り巡らされた金網の天井の下、見渡す限りの美しい花畑の中に小さな白い少女がいた。
そのあどけない可憐さを縛るように、細い両手首には古めかしく大仰な手錠が掛けられている。
少女が不意に顔を上げる。
真っ白な長い髪はさらりと流れ、切りそろえた前髪の下、双眸が姿を現す。

落ちていく。
冷たい風と冷たい雨。れっきとした現実の景色の中を、ほの明るい光の粒子を撒き散らしながら、わたしが透明な赤色に染め上げられていく。
膨れ上がるスカートも、風に流される髪も、魔法に掛けられてゆく。ぺたんこだったローファーも踵の高く華やかなものへと変わっていた。
幻が露と消えていくにつれ、現実が泡立っていく。
手袋に覆われた指が、空を切った。

わたしは確かに落ちている。
いや、落ちていたのだ。
軽やかに踵を鳴らして、歩道橋の真下、信号が切り替わり停止した車たちの合間に降り立った。
衝撃ひとつ、骨に響かない。

う~ん、良い描写です。明るすぎず丁寧で細かい。なんというか「美しさ」がありますよね。

タイトルも複数の意味が重なっていて見事。落ちることで変身する「落下」製魔法少女であり、花が原因だから「花」製魔法少女でもある……すばらしいセンス。

ストーリーの内容だと、フラウが目覚めた異世界のシーンとかも実にミステリアスで幻想的。魅力的な描写ですよねぇ。そして過去のできごとが明らかになっていき、それぞれのキャラクターが覚悟を決める終盤の展開はすごい。けっこう涙腺に来ました……みんな幸せになって欲しい。そして夢と希望は残っている!

読み終わった後には大きな満足と深い余韻があることでしょう。

 

私の町の巨大ネコ

102,376文字

中学生になった最初の夏、主人公「ミレナ」は魔女の瞳を開眼する。祖母から受け継いだ目は普通の人には感じられないものが見える様子。そして、どうやら巨大ネコは人間の死に反応するようで……? 少女の葛藤と成長。

ネコ・ヘビ・蝶・ヒトデ・蟲など、人間の状態を生き物で表現するアイディアが面白い。想像すると何とも不気味かつ幻想的でステキ。美しく絵になるシーン多数。登場人物もメインとなるミレアと祖母が口が悪いなど個性が出てます。

ネタバレありの感想

美しく絵になるシーン多数。

窓から外を見れば相変わらず空が青かった。

油絵で描かれたような入道雲が遠くにくっきりと浮かんでおり、その下で巨大ネコが身体をウンと伸ばしている。

瞼を閉じ、耳を垂らした姿はネコそのもの。

巨大であること、他の誰の目に止まらないこと、その性質。

異質な要素が絡むネコも、何もなければ可愛いものだった。

風が吹き、木々が揺れる。

ネコのヒゲは風に動かされることなく、ネコの自由意思に従ってピクピクと動くばかりだった。

彼の手首にはヘビが巻き付いていたが、病院に来ていた人たちは、それこそ多種多様な生物に憑りつかれていた。

ヒトデが頭にくっついた老婆。

カラスが肩に乗った中年の男性。

瞳に蝶がとまっている白杖を持った青年。

レントと同じようにヘビがギプスの付いた足に巻き付いている人もいた。

どうやら何かしらの症状に対して、特定の生物が憑りついているらしい。

レントやギプスをした人から察するに、ヘビは骨折なのだろう。

ヒトデは頭にしかついているように見えない、脳の病気なのだろうか、それとも血管なのだろうか。

蝶は白杖から考えると、きっと視覚障害に関係しているのだろう。

ボンヤリと宙を見つめている中年に止まったカラスは何を表しているのだろうか。

実にファンタジー! すばらしいビジュアル! 文字を読んでるだけですが、脳内に自然と映像が浮かんできます。特に終盤の場面には感動しちゃいました。まさに魔女の最期にふさわしい

そして、おばあちゃんの口調が良い味してる。

「おばあちゃんおばあちゃん、もしくは妖怪クソばばあ」
「なんだい口が悪いねえ、目ん玉くり抜いてしまおうか。……全く誰に似たのだか」
「おそらくきっと、十中八九おばあちゃんの血筋だと思うよ」

到底孫娘に返す言葉とは思えない内容を口にする祖母に、少女は冷静に返す。

少女のツッコミを聞いた祖母は、鉤鼻をハンと鳴らし、グイっと首を傾け少女の目を覗き込む。

「性格が遺伝するわけないだろう。科学的じゃあないねえあんたは」
「いいえ、おばあちゃん。遺伝じゃなくて環境ですよメイビー」
「ならお前の口の悪さはどこで覚えたんだい。学校じゃあ丁寧な言葉っていうやつを教えてはくれないのかい。ええ? どうなんだい」

こういう会話、いいですよね! 親密な関係だからこそ乱暴な会話ができる! おばあちゃんの強気で芯の通った性格も伝わってきます。テンプレな口調だけでなく、その作品ならではの会話シーンがあるとグッと引き込まれるもの。

敵役となる父親の言葉も、まさに嫌な感じで上手い。現実的な不快さ。こういう人いるんですよね~。かなりウザいので読者としても対峙するミレアを応援しまくっちゃいます(笑)

生き物を使ったインパクトのある描写、それを利用した丁寧で分かりやすいストーリー。作者さまの実力を感じる小説です。

 

魔族史 

58,841文字

人類と魔族、2つの知的生命体が進化した地球。人類はアフリカ・ユーラシア大陸、魔族は南北アメリカ大陸で発展。魔族文明の変化と近代以降の世界大戦を解説。

本格的な創作歴史。魔族の文化にとてもリアリティがある。700万前の人類と魔族の生物学的な分化から始まる大スケールで厚みのあるファンタジー。

ネタバレありの感想

魔族の生態と文化にとてもリアリティがある。こういう作風すごい好き。

魔族は白い髪と肌、赤い目を持つ。血は赤く、寿命は人族と同じ。顔立ちも人類のものとよく似ているため、ちょっとした変装をすれば容易に成りすます事ができる。そのせいか魔族は人族の近縁種だと勘違いされがちである。しかし、遺伝子的には人族とチンパンジーほどの差がある。人族とチンパンジーが子供を作れないのと同様に、人族と魔族も子供を作れない。

火や金属の代わりに魔族の文明・文化を支えた物こそが「球体」である。魔族の学名がマレフィカ・オービス(球体魔法使い)と名付けられたほど、球体は魔族を体現したモノだ。
魔族の歴史は球体の歴史である。魔族はテレパシー以外の魔法は球体が無ければ使う事ができない。人族がより高温の火、より硬く軽い金属を求めたように、魔族はより完璧な球体、より巨大な球体、より透明な球体を求めてきた。それがより強力で便利な魔法の、ひいては文明の基礎となったからである。
木や石を削って球体を作った木石時代から始まり、水晶時代、ガラス時代、アクリル時代と続く魔族の時代区分は、その時代に普及していた球体の材料に由来している。人族にも石器時代や青銅器時代という区分がある。それと同じだ。

「人類は猿から進化した」というフレーズは誰もが聞き覚えがあるだろう。これは魔族にも当てはまる。700万年前まで、人族と魔族は全く同一の種だったと言われている。両種族の祖先の化石の年代を遡っていくと、両者の違いは次第に少なくなっていき、700万年前の化石で同じ物に収束する。サヘラントロプス・チャデンシスである。

球体を使って魔法を使う、というファンタジー的にも面白い設定。そこから球体の材料によって時代を区分するという考古学的な発想……ものすごく良いですね! 各時代の魔法文明の風景を想像すると、何ともステキ。
さらには700万年前の生物学的な進化から扱うってんだから、この手の創作歴史の中でも本格的で厚みがある。生態と文化を内包した種族全体の進化。魔族文明史ではなく、まさに「魔族史」と呼ぶににふさわしい内容でしょう。
センスある設定と細かく深い描写。高品質なファンタジー作品です。

 

私立ソシャゲー学園高等部

私立ソシャゲー学園高等部(ロリバス) - カクヨム
リセマラで荒んだ心を少しでも笑わせたいソシャゲ風学園コメディ

41,876文字

ソシャゲーのシステムを採用した学校……と言うよりも、学園ソシャゲーの主人公視点と思った方が分かりやすい? 何にしろソシャゲーのシステムと学校を融合させたセンスがすばらしい。笑いながらサクッと読める良作短編。

連載中

 

コルシカの修復家

627,546文字

地球に埋蔵されたエネルギー源が枯渇した近未来。人類は絵画を還元すると不思議なエネルギーを得られると発見した。生活は維持されたが、代わりに絵画から芸術的創作的な意味は無くなった……

個性的な世界観の中で、絵画修復家の少年と記憶喪失の少女が地中海のコルシカ島をめぐる物語。タイトルロゴまであって、しかもセンスがいい!

風景の描写も美しく、全体的な雰囲気がすばらしい。良い意味で「小説家になろう」っぽくない。

ネタバレありの感想

何といっても「絵画がエネルギーに変換できるようになる。しかし、そのせいで美・芸術という概念は失われている」という珍しい設定がセンス抜群!

「素晴らしい! この鮮やかな色合いはまさにこの画家の特徴。これなら修復前よりも数倍多くのエネルギーになるに違いないですぞ。ああ、本当に、何度見ても素晴らしい」

エネルギー。その単語が耳に入って、ルカは少し淋しい気持ちになった。修復とはもちろん絵画を本来の在るべき姿へ戻す作業だが、その目的は絵画をより美しい形で鑑賞したいからではない。絵画をより多くのエネルギーに還元する為なのだ。

すごいアイディアでしょう! 絵画が「エネルギー資源」として扱われ、画家たちは「エネルギー生産者」として評価される時代!

絵の価値とは? 絵を描く意味とは? リアル地球とはまったく異なる世界観が支配する社会……とても個性的でとても魅力的です。

クロードおじさんの「いやでも、持ち主の来歴で評価されたり投資目的で絵画が売買される時代よりも、客観的な数値で判断されるほうが美の公正な審査じゃね?」的な意見はけっこう分かります。ところがどっこい。

また、舞台として地中海のコルシカ島を選んでるのも、オシャレでロマンチック。旅の中で訪れる各町の描写も魅力的。

全てが撫子色に染まった空に、突如閃光せんこうが走る。
黄金の、神が放った矢のように見える。また、秋の空の下たなびく黄金の麦のようにも見える。
真正面にそびえ立つ険しい岩の山――バヴェラ鋭鋒えいほうの先端を貫き、黄金の太陽が生まれた瞬間、ルカの心は感電したかのようにじんわりとしびれた。

コルシカ島の朝は一枚の絵画から始まる。
それは全ての空を覆う撫子色のヴェール。
そしてそれを貫く一筋の黄金色。

人は、人が何かに触れた時に感じる感動を抑えることはできない。その感情を形にした芸術品もそうだ。
誰にもとめられやしない。

う~む、美しい描写! 私もこの風景を見てみたい!

ストーリー面でも少女の失われた記憶と世界の真実を探っていく本格ジュブナイルで質が良い。それぞれのキャラクターに過去・秘密、譲れない思いがある。

2018年8月時点でも70万字を超える大長編ですが、ダレた感じはありませんね。章分けが明確であり、1つの章の中では起承転結がしっかりあってテンポがいい。

あえて問題点を上げるなら、がっつり「絵画」をメインテーマにしているのでここに興味がないと楽しみにくいのだけが欠点?

読む人は選ぶかもしれませんが世界観・キャラ設定・ストーリー、すべての要素が高品質な良質ジュブナイル作品です。

 

隣の部屋の女騎士は、異世界人で飲み友達

316,294文字

賃貸マンションの隣り部屋に、異世界から女騎士・吸血鬼・大魔法使いなどが転移してきた!? そんな状況にあっさり適応し、今日もみんなで酒を飲む。

ストーリーは非常にゆるい空気。みんなでわいわい、すごく楽しそうでいい! とても軽く読めますね。グルメものとしては酒・つまみが中心。マリベルさんの長文感想芸が良い味してます。

ネタバレありの感想

……ま、まあまあじゃの。こ、この程度の美味なら、夜魔の森の我が居城で、……居城で」

「素直じゃないねぇ」

俺はそうハイジアに声をかけた。

「ええい、やかましい! いいからもう一つ牡蠣を寄越すのじゃ!」
「おう、ドンドン食ってくれ」
「あのー、私も牡蠣食べていいですかー?」
「もちろんだ! みんなもジャンジャン食べてくれ!」

牡蠣パーティーが始まった。
みんなが缶々に集まって、焼酎片手に牡蠣を摘む。
そんな中、俺も牡蠣を一つ摘んで口に放り込んだ。

「どうだ? 旨いか?」
「旨いなんてモノではない! 口に含むとまず口腔を駆け抜ける風味豊かな磯の香りと香ばしいカニの香り、次に少しだけカニ身の繊維を残してトロトロッと舌で溶けてゆく味噌の濃厚な味わい! 残った余韻を日本酒で洗い流すと再び口腔を襲い来る新たな旨味! 極楽、まさに極楽よ! 我、ついに涅槃に至れり!」
「……お、おう」

ハイジアに甲羅焼きの感想を聞くと、マリベルが横から急に叫びだした。
俺は軽く引き気味になる。

マリベルさんの勢い、ほんと好き(笑) 来るたびに「よ、待ってました!」みたいな気分。こういう「この作品の特徴はこれだ!」みたいなのがあると印象に残りますね。
こたつに入って、美女たちとうまい酒とつまみを味わう。男の理想郷の1つと言えるでしょう。

 

世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)

107,679文字

ある日、唐突にサイキックパワーに目覚めた主人公。訓練と研究を続けることで世界最強の力を手に入れた。しかし! 何も起こらない! 敵も仲間も現れない! こうなったら自分が世界の敵と正義の秘密結社を両方作って暗躍してやるッ! ようこそ人工非日常へ!!!

天才のギャグセンス! 大爆笑しまくり……キレッキレすぎる。マッチポンプで自作自演の秘密結社という楽しいアイディア、出てくるキャラクターもみんな濃い。

ネタバレありの感想

翌日、俺を襲ったのは念力痛だった。筋肉を使えば筋肉痛になり、頭を使えば頭痛になる(事がある)。だからといって念力を使って念力痛になるのは予想外だった。
どんな痛みかと聞かれればこれまた説明に困る。言葉にすればフォルアァ! って感じか。わっかるっかなー。わっかんねーよなー。中二的に表現すれば内なる魂が殻を破り渾沌を溢れさせている感じ。

本当に、何も起きなかった。これだけ一生懸命念力を鍛えたのに、華の学生時代に謎の秘密結社も異世界からやってきたヒロインも接触して来なかった。
どうするんだよこれ。社会人になっちまうぞ。来るなら早く来いよ非日常! おっさんになってから大冒険とかキツいから来るならマジで早くしてくれ!
来ないのか? 本当に来ないのか?

……来ないわ。
俺は無事大学を卒業し、就職した。無事過ぎて吐きそう。

きっとまだ取り返しはつく。
そう。学生時代の俺には思い切りが足りなかった。
逆転の発想だ。
非日常がやって来ないなら、俺自身が非日常を作ってやる。
因縁のライバルを作ろう。可愛くて強いヒロインを作ろう。キャラが濃い仲間を集め、世界の闇と戦う秘密結社を作ろう。戦うべき異形の敵を作ろう。俺には、それができる力がある。
俺は二本目のビールを飲み干し、決意と共に立ち上がった。

うぉおおおおおおおおおッ!

決めたぞ!

脱サラだオラァ!

俺が!

俺自身が!

超能力秘密結社だ!!!

もうすべてがセンスの塊。次々から次々に出てくるネタがどれも面白すぎる。作者さまの頭の中はどうなってるのか……

副官となる鏑木さんのキャラ造形も良い意味でやばい。23歳の堂々たる整形美人で、使用人から自分を「お嬢様」と呼ばせている。いまだに夢見る中二病で普段着がドレスとか着物。本棚には超能力・宇宙人などを真面目に研究したノートがぎっしり。めっちゃめちゃ濃い……!!!

主人公と鏑木さんが2人で秘密結社ごっこしてるの超楽しそうなんですよね~。主人公は下手すると地球破壊とかできるチート級の強さなのに、やってることは大人のごっご遊び。お約束のネタを自分たちで作る! 読者としても「あるある~!!!」って感じ。いや本当にセンスの塊。これが天才の発想……!

 

無口な清楚系女子がテレパシーで授業の邪魔をしてくるから僕はすごく困る。つまり、雑念の沙鳥さん。

つまり、雑念の沙鳥さん。(関根パン) - カクヨム
【書籍化したよ】無口な女子がテレパシーで授業を邪魔してくるから困る。

99,379文字

どこからでも読める一話完結コメディ。中学生の芯条(男子)と沙鳥(女子)は、声を出さずに会話ができるテレパスの超能力者。しかし、やることは雑談だけ!

沙鳥さんのボケが良すぎて、どうしても笑ってしまいます。

 

竜魔神姫ヴァルアリスの敗北

竜魔神姫ヴァルアリスの敗北(CAT(仁木克人)) - カクヨム
絶対無敵、最強不敗の竜魔神姫を打ち負かすのは……人類の美食!

17,061文字

魔界の次期統率者である竜魔神姫トンデモナイゼ「ヴァルアリス」は、王族に課せられた試練である滅界儀式ホロボシタルに臨もうとしてた。しかし、全てを滅ぼすため人間の世界へ降り立った彼女を待ち受けていたのは、あまりにも美味すぎる人類の食事だった!

非常にギャグのレベルが高いファンタジーグルメ作品。私が読んできた中では、商業まで含めてもトップクラス! まず、序盤の魔界式ルビで大爆笑。天魔星将ドエライヒト神格天魔星将ゴッツエライヒト復元蘇生魔法シンデナカッタッス無詠唱ナンモイワン……本筋に入る前から面白いの確定。このセンスはすごい。

そして、本筋の食レポ敗北記も楽しすぎる。予想外の攻撃でポンコツ化するヴァルアリス様かわいい。ギャップ萌え、プライド高き少女が堕ちる……定番と言えば定番だけどクオリティが高い。あと無駄に迫力があり謎に掘り下げられる料理のこだわり。

ネタバレありの感想

(何故だ! そんなに熱いわけがない、ちゃんとフーフーしたのに!)

ヴァルアリスが混乱するのも無理からぬ事であった。
魔族には辛いものを食べる習慣がない。一応人間の世界でいう唐辛子に近い植物はあるのだが、食べると全身の体液が沸騰して爆裂するので誰も食べない。

生まれて初めて味わう「辛い」という味覚を、理解する事が出来ないのである。

いろいろ頑張ってみるものの負けまくりなヴァルアリスさま、本当にかわいい。

さらに、個人的にはヴァルアリス様と並ぶ主役なのが店主たち。みんなキャラが濃い。謎に掘り下げられ、無駄にドラマチックな文体で説明されるのが笑いを誘う。

宝生軒の初代店主は、この店を築いた。二代目店主はその精神を受け継ぎつつ、至高のスープを完成させ、製麺機を導入した。

ならば、三代目店主である自分には何が出来るか。沢嘉人は重圧の中で悩み、苦しみ、切磋琢磨を重ねた。その果てに、誇るべき一つの武器を手に入れたのだ。

観察眼であった。自らこだわりの素材を吟味し、客の反応をそれと知られずに伺うことで高められたその観察眼の鋭さは、魔眼と呼ぶべき領域に到達したのである!

もちろん中心となる料理の描写もとても丁寧であり超うまそう。
ファンタジー&グルメ、このジャンルの作品はすでに多くあります。しかし、本作はギャグのセンスと表現力がとても高く、過去の作品に負けない新たなる名作と言えるでしょう。
ものすごく面白い、おすすめ度がめちゃ高いです。

 

手のひらの一滴

21,946文字

超短編集。twitterにも投稿しているようで、つまり140字以下。それなのにしっかり味があってすごい……かなりのセンスを感じます。内容としては恋愛・ファンタジー・SFなど。

ネタバレありの感想

「冒頭はとてもとても大切なのです」という1話を引用させていただくと、

「朝がきた。」
……ダメだ、普通すぎる。ボツ!

「世界に光が満ち溢れ、人々の顔は歓びに輝いた。」
ダメダメダメ! 状況がちっとも伝わらない、ボツ!

手元には幾度も陽光が差し込み、文字を消す毎にまた夜へと戻る。

この世界では、まだ朝は来ない。
カミサマが満足のいく「光あれ」を見付けるまで。

良い……
長編とは違う、超短編だからこその世界があります。

アクション、バトル

特に戦闘シーン中心の作品。

完結

異界巡りのさがしもの

異界巡りのさがしもの(朝乃日和) - カクヨム
少女たちは旅に出る。夢と魔法とヘンテコの、メルヘン冒険ファンタジー!

215,311文字

記憶をなくした少女「ペケ」は、「ニコ」と名乗る駆け出し魔女に拾われる。ニコによると、ここは異界の1つ、魔女ばかりが住む『魔女界』らしい。ペケの記憶を探すため、2人は異界巡りの旅に出る。

絵本のようで不思議でヘンテコな世界観がとても楽しい。空飛ぶカボチャ、火山から打ち出される複数の太陽、空の上の海……メルヘンでファンタジー! この世界に行ってみたくなりますね。

ストーリーの方は正統派で王道的。謎、冒険、戦い、成長……終盤に向かって熱く盛り上がっていく。

ネタバレありの感想

魔法少女界アリスは無数の島からなる世界だ。島の大きさはバラバラだが、島同士の距離はどれもそこまで遠くない。そして全ての島が、少しだけ宙に浮いている。島底が海面に触れない程度に浮遊し、海に巨大な影を落としている。それが当然であるかのように、何の理屈もなく浮かんでいるのだ。

世界一面に散りばめられた浮遊島と、それらを繋ぐ虹の橋のネットワーク。そして島々の下に広がる底なしの海。それが魔法少女界アリスという世界だった。

う~ん、いいですね! 想像するとたまらん! ファンタジーならではの非現実的で美しい光景、大好きです。序盤から最後まで楽しい場所がたくさん出てきてワクワクが止まりません。

もちろん見どころは世界観だけじゃない。この作品、けっこうバトルシーンが多いんですが、これが熱い!

使えるのは数個の技だけ。それらをどれだけ使いこなせるか、応用できるか……能力バトルものとしても高品質です。主人公たちの創意工夫と機転が見事。個人的には第33~34のバトルが好き。ペケさん、応用力ありすぎ!

また、ストーリー展開も練り込まれてますね。この世界の魔法使いは3つに分類される、これがしっかり伏線になっています。

記号をモチーフとする者、魔法少女。
文字をモチーフとする者、魔導士。
そして数字をモチーフとする者、魔女。
人々は、魔法使いをこう呼ぶのだ。

はたして記憶を失った主人公「ペケ」は何者なのか? どんどん新たな謎が出てきて、最後にはしっかり答えが出る。すばらしいギミック、これを思い付けるとはやりますねぇ。

まさにファンタジーな世界観がすばらしいし、バトルもストーリーも熱い! 作者さまの想像力にうならされる作品です。

 

剣脚商売 ~現代美脚ストッキング剣豪譚~

180,526文字

女性の美脚にストッキングが合わさった時、それは恐るべき刃と化す! そして男の視線は釘付け! 剣脚(けんきゃく)の戦いと町長の陰謀。

脚フェチのこだわりが詰まったバカバカしくも熱い描写。小気味の良い、リズミカルな地の文。微妙に謎の説得力があってジワジワ来る設定。性格・戦い方共に個性豊かなキャラクターたち。

ネタバレありの感想

ショーパンの裾から覗きし、太ももから尻にかけての切り返し部。即ちパンストの『切り返し』! 走守の要、『ランガード』!
懸命な諸氏は既に周知の事であろう。パンストにおいて伝線を防ぐためのレッグ部分との切り返しこそがランガードであり、ときめきの視線を一箇所に集め、美脚刀剣術の一端を担う、刀で言えば鍔である。

う~ん、すごい脚フェチだぁ。作者さまのこだわりが引くぐらい伝わってきますね! こういう作者さま自身が書いてて楽しそうな物語は、読者も楽しくなります。

これはもはや、地の文というより「語り」。芝居を見ているかのごとし、脳内に音として再生される。太鼓などによる合いの手までが聞こえてきそう。
この文章力はすごいですよ。すさまじい勢いとリズム感。私の読んできたweb小説の中でもトップクラス。

そして、バトル部分も出来が良い。それぞれのキャラの戦法が個性的であり見てて飽きない。脚だけの話なのに、よくぞ多様性が出せるものです。
私が好きなのはヘル・レッグゲルズという2人組。

「行くぞ夢藤むとう、タイツ狩りだ! 女子ネットパワー、プラス!!」

可愛らしい自撮りの写メや手作りの料理画像を、ただし自分の顔は決して晒すことなくネット上に次々とアップし、その女子力にて驚異的な引力を、脚に宿らせる女。

「女子ネットパワー、マイナス!!」

片や、いかがわしいニーソ破廉恥写メや血まみれの不穏な画像を、ネット上に次々とアップすることで男たちの注目を集め、逆ベクトルの女子力にて驚異的な引力を、脚に宿らせる女。

「ロスト・ボンバーッ!!」

プラスとマイナスの二人の女が犠牲者に跳びかかり、レッグラリアートの体勢で前後から挟み込む。

+-の女子ネットパワー、見た時は爆笑! ほんまセンスありますわ……

剣脚商売、かの名作「剣客商売」からの思い付きでしょう。普通なら一瞬の思いつきだけで終わるであろうネタ……それをこれだけ脚フェチ要素と熱いバトルが詰まった見事な長編作品に仕上げてしまうのはすごい。

 

エア・ウォーカー

エア・ウォーカー(森田) - カクヨム
俺たちは、翼を捥ぐ仕事をしている。

103,599文字

地上の生物を無差別に攻撃する謎の侵略存在『飛獣』と、飛行能力を持った新人類の戦い。『選ばれない存在』である事を自負する少年「真鍋マグ」は、襲撃の中で能力が明らかになり防衛組織の一員となる。はたして東京を守る戦いの行方は……

戦いの設定にオリジナリティがある。「地面にたたき落とす」ことを目指した質量兵器のアイディアが面白い。

ストーリーはとても苦いけれど、それが好き。これ系の作品を見るたびに「根本的な原因と解決策が分からないまま、対処療法だけでハッピーエンドなんて無理じゃね……?」と思うタイプだったので。

ネタバレありの感想

飛獣の翼を切り落とすための質量鉈や、質量斧の類。
直接殴りつけてその運動エネルギーで飛獣の高度を無理矢理下げる質量槌。
金属杭を打ち込み、大質量の付与と構成体の破壊を一手で行う貫徹機構。

「最後に……これが最も重要な装備です」

室長が差し出してきたのは、黒い外套だった。
カラスの羽のように、光の角度で微かに緑がかる鈍い黒。
遮熱襲しゃねつかさねの黒は、東京の誰もが知っている、対空警邏の黒だ。

やはり、その作品ならではのルールがあるとバトルシーンに個性が出ます。
巨大で重い武器を持ち、黒い羽織を着て空を飛ぶ。空獣に巨大な矢を突き立てて引きずり落としていく。なんとも絵になりますねぇ。

ストーリーは、いわゆる主人公最強の無双バトルが好きな人にはちょっとおすすめできません。無力感に悩んでいた少年が、能力に覚醒し、戸惑いながらも変化を受け入れ、仲間たちと絆を深め、戦いの経験を積んでいくけれど……?

私も最初は一般的な大勝利ハッピーエンドかと思ってたんですけどね~。浦賀准尉が死んだときは予想外で驚きましたよ。終盤で仲間がやられていくシーンもえげつない。しかし、重苦しいからこその魅力がある。

最後にキャラの話をすると柊アリア中佐がお気に入り。オマケの闇深い描写はグッときます(笑)

連載中

 

もしも魔法少女5人が全員オタクだったら

509,916文字 (カクヨム版

ある日、日本へ「闇の使者」たちが攻撃を始める。それに立ち向かうために運命に導かれた5人の少女達は、しかし全員が超のつくほどのオタク集団だった……

もちろんオタクな笑えるギャグシーンもありますが、タイトルからギャグコメディかと思えばストーリーは真面目で熱い! 人は死ぬし、少女たちも命がけ。少年漫画のような、勇気・友情・勝利の王道展開が気持ちいい。

序盤はちょっと地の文が単調で気になるかもしれませんが、すぐに慣れるでしょう。なんというかアニメの台本的な? 読み進めていくと、ほんとアニメを見ている気分になれますね。

 

勇者のクズ

勇者のクズ(ロケット商会) - カクヨム
チンピラの俺が女子高生勇者の家庭教師をやるハメになった件とビールとピザ

連載中(本編完結)、430,166文字

薬物と改造手術によって強いパワーを手に入れた犯罪者たち「魔王」と、同じく薬を使って体を強化する「勇者」のいる社会。勇者は合法的な殺人者だが、けっきょくは人殺しであり社会のクズとみなされている。

主人公は勇者なんて最低な職業をやめたいと思っているけど、心の底では理想を捨てきれない。今日もビールとカードゲームを希望に、血なまぐさい現実を生きている。

キャラクターがすごく魅力的。主人公の信念と自分ルールがいい。あとは、城ヶ峰亜希さんが好きですね! 突き抜けたバカっぷりと周りのドン引き加減が最高。

 

東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>

240,351文字

日本が発明した、瞬間移動を可能とする新世代交通機関【テレポーター】。しかし、それを利用して異世界から残忍な侵略者たちがやってきた! 対峙するは、大量の現代火器で武装した対テロ特殊部隊の精鋭たち。はたして任務は成功させられるのか?

中々に良質なガンアクション&パニックホラー。出てくる銃器の種類が多く、作者さまのガンオタっぷりというか銃好き魂が伝わってきます。戦闘シーンは非常に緊迫感があり人が死にまくりで、グロい。今まで読んできたなろう作品の中でトップクラスにグロいです。注意。

また、敵軍も文明と知能を持っていて「元の世界が荒廃してしまったので移住しないと自分たちが死ぬ」という侵略に明確で悲壮な理由があるのも良い。事前に地球の情報収集済み&人間の中に敵スパイがいる、という超絶ハードモードなのが本格的。

ネタバレありの感想

永友の手に握られているショットガンは、イタリアのバルトロ社製、PM5。

銃身下のフォアエンドを手動で前後させて連発するポンプアクション式で、速射性能こそ劣るものの、堅牢な設計で悪条件下でも作動信頼性が高く、迅速な弾薬交換が可能な着脱式マガジンを持つ。

右太股に取り付けたサファリランド社製SLSレッグホルスターには、S&W社のM&P9オートマチックピストルが収納されており、後ろ腰のバックサイドホルスターにも護身用のグロック社製G26ピストルを差してある。

細かい! こだわりを感じる! まぁ、ちょっと細かすぎる部分もありますが流して読んでも雰囲気は分かります。作者さまによる簡単なイラストも付いてますし。銃ごとにイラストがあって本当にこだわりを感じますねぇ。

戦闘場面はめっちゃ血みどろ、だからこその魅力がある。

急に、そのSAT隊員が悲鳴を上げた。
銃を握る両腕が、床に落ちる。
血を噴き続ける腕の赤黒い断面を見て、彼は目を剥いてより一層恐ろしい声で叫び、そのままガクリと倒れて動かなくなった。

仲間の異変を見て駆け寄ろうとした銃対隊員も、すぐに見えない何かによって両足、そして両腕を切り落とされた。
断末魔を上げながらイモムシのように床を這った後、間もなくその首も切られて床にごろり転がった。

いやー、グロいグロい。文章力があり丁寧な描写なんですが、それゆえにグロさ倍増。

また、は敵軍の設定&描写も丁寧で細かい。好きな作風です。

空気や水は汚染され、植物は充分に育つことが出来ず、食料が欠乏している。

隣国でありかつての敵国であった【ロエベッタ】王国では一昨年、食糧難に対応すべく『共食い』についての法が制定された。

昨日の家族が今日の食卓に並ぶその国と比較してみれば、この【グザエシル】帝国はいくらかマシな方であった。

だが、世界はもはや全てが手遅れで、救済の術など無かった。

これから始まる【異世界侵攻作戦】、それ以外には。

意外と侵略者の内情・心理を書いてくれる作品は少ないもの。個人的には好印象です。「どんな存在が」「どんな理由で侵略してくるのか?」というのは気になるポイントですからね。

ストーリーとしては先手撃たれまくり。この手の作品にしては敵軍がめちゃめちゃ有能。有能すぎる。絶望感がやばい。なんというか単なるパニックホラーではなく「戦争」な空気。

STAGE:02は読んででマジで驚きましたからね。死んだぁぁぁ!? からの、お前がスパイかよぉ!?!?

あと、ストーリーの書き方がすごく好み。主人公たちによる本筋の展開が始まるのは3章から。2章までは削ろうと思えばもっと削れるでしょう。
でも、この「事件発生前」を丁寧に書いているからこそ侵略の絶望感が倍増している。貯めてから爆発、上げてから落とす。

あと、ヒロインがやばい奴ばっかで笑う。癒しキャラが1人もいないんですが…! 色々な面で作者さまのこだわりと熱意が伝わりまくってくる作品です。

 

クロノメーター・クロニクル/勇者のいない鉄と血と硝煙のファンタジー

178,238文字

16世紀の初頭、魔物の軍が突如として出現した。彼らの強大な力によって人間領域は100年たらずでヨーロッパと、一部の地域にまで追い詰められていく。マスケット銃、前装砲、帆船、城塞等の17~18世紀頃の技術を駆使して、魔物の軍団に挑む物語。

仮想戦記×ファンタジー。船と海戦を中心に書かれているのが個性的ですごく良い! 船って、兵器武器の中でも地味めで題材になりにくいんで貴重な作品。なろうでもファンタジーと言ったら基本的に地上を歩いて旅する感じだし。細かく丁寧で迫力ある海戦が魅力。

戦記ものの系譜なんで、専門用語と登場人物が多いのは注意。それでも読みやすい文章で大して気にならないのでは。まったく知識が無い私でも楽しめてますし。

ネタバレありの感想

ガンデッキに波が流れ込む。ハード号が波によって浮き上がった瞬間を見計らって、掌砲長が号令をかけた。
「いまだ!門蓋を忘れるな!押し出せ!」
掛け声とも唸り声ともつかない声を上げながら、砲手たちが大砲を押し出した。
掌砲長は刻々と変わるレイチェル・ハード号の傾きを見定め、号令を発する。

「撃てーっ!!」
片舷十二門のカルバリン砲が、一斉に爆音を轟かせる。炎を吹き出した大砲は、勢いよく下がり、固定ロープによってガツンと止まる。衝撃波は、クオーターデッキのアリソンの額を軽く平手打ちして、ビリビリと船体が振動する。

派手な黒煙は、風に流されるまま甲板を通り過ぎていった。

まぁ、ある意味でガチすぎるというか、かなり細かい部分の名称・専門用語もバンバン出てくるので少し読みにくいと感じる人もいるかも?
全部を理解できなくても十分に状況は分かるので楽しめるとは思いますが。

タイトルにもなっている人間側の秘密兵器が、「クロノメーター」という地味な計測器なのも最高に海戦物語ですばらしい。

取り出したのは小さな機械だった。
装飾が細かく美しいく輝いており、見る人を魅了する輝きを放っていた。
それは、貴族の道楽などで作られる、ブレスレットウォッチや懐中時計と呼ばれる物だった。

価値とは、このクロノメーターと太陽さえあれば、大海原のど真ん中にいても、自分が地球上のどこにいるか正確に知ることが出来るという能力のことだ。
これは「武器」と言っても大げさではない。
大西洋のような海原を航海する場合、艦隊で固まって出発したとしても、天候不良でバラバラになったり、針路がずれて目的地にたどり着けなかったりする。
だが、このクロノメーターがあれば、海上で無理に艦隊行動しなくとも、敵地手前の安全な海域で再集結することが可能だし、同じく敵前に補給基地を作っても、そこに安定して補給物資を運ぶことができる。
陸から見えない海域を航海することで、魔界軍に発見されることのない安全な航路が確立し、中国やインドとの連絡航路を繋ぐことも可能になる。

クロノメーターは時間という定規を使って海を支配することが出来る、ということだ。

直接に敵を攻撃する新型の大砲・銃・船ではなく、海での移動を最適化する計測機こそが逆転の秘策! いいですね~、リアリティで説得力のあるアイディア!

また船以外にもマスケット銃、前装砲などが大活躍。これ系が好きな人にはたまりません。

注意点としては1人1人のキャラ描写はかなり薄めですね。いわゆるキャラものライトノベルとは違った方向性なので読む人は選ぶでしょう。
しかし、戦記物としてはすごく高品質でワクワクドキドキさせてくれる作品。船と海戦に興味がある人はぜひぜひ読んでみるべきですよ!

 

中年社畜カードゲーマーの魔法少女狩り

中年社畜カードゲーマーの魔法少女狩り【カードイラスト公開中】(楽山) - カクヨム
敵は人智を超えた魔法少女、彼の武器はカードだけ【カードイラストあり〼】

131,859文字

34歳独身、趣味はトレーディングカードゲームとアイドル鑑賞。社畜としての辛い日々を送っていた「和泉慎平」。ある日、彼は不思議な美少年にカードゲームを挑まれた。その後、謎のカードを使った超能力が発現、さらにはアイドル達に殺されそうになり……!?

主人公「和泉慎平」は周りに巻き込まれているだけであり、理不尽に苦しみながらもがく姿が共感と涙を誘う。魔法少女狩り、というか狩られる側。

また、登場する美少女たちの外見描写にこだわりを感じる。服装なども丁寧に描かれイメージやすい。

 

ミキとうさぎと機械の迷宮

ミキとうさぎと機械の迷宮(兎月竜之介) - カクヨム
戦争が終わったあとも、少女たちは戦い続ける!

112,057文字

最悪の破壊兵器「魔力爆弾」が極東の島国に投下されてから10年、爆心地は無人多脚兵器「野良戦車」が群れなす巨大な機械迷宮と化していた。

戦災孤児の少女「来栖ミキ」は姉の病気を治すため、機械迷宮で魔法金属を拾い集める生活。ある日、野良戦車に襲われていたミキを助けてくれたのは「私立討伐隊」を名乗る少女たちだった!

少女たちの友情と勇気、百合風味のバトルファンタジー。世界観が良い感じ。野良戦車と機械迷宮、イメージすると迫力ありますねぇ。逆に出てくるのは少女ばかりで華やか。映える対比です。1章は完結済み。

ネタバレありの感想

彼女を追いかけている野良戦車は、胴体や砲塔こそ戦車らしさが残っているが、キャタピラの代わりに蜘蛛のような脚部が生えていた。

機械迷宮はそこら中が倒壊した建物だらけで、キャタピラでは乗り越えられないような地形が多々ある。

野良戦車が破壊と再生を繰り返すうちに環境へ適応したのだろうと言われているが……そんなこと、研究者でもなんでもない少女には関係なかった。一つハッキリしてるのは、野良戦車は人間を好んで襲うということだ。

少女の年齢はおそらく17歳くらい。濡れ羽色の長髪をなびかせて、大きな白いリボンを後頭部に結び、濃紺のセーラー服を着ている姿は一介の女学生にしか見えなかった。

しかし、彼女が普通の女学生でないのはすぐに分かる。なぜなら、彼女が大昔の武士が振るったとされる刀剣『秋津刀』を真一文字に構えていたからだ。

暴走する無人兵器、機械が組み合わさった迷宮、魔法を使って戦う少女たち……グッときます! すごく絵になる。

ストーリーはやや定番すぎる気もしますが、悩みと前進・葛藤と成長がテンポ良く書かれている。
作者の「兎月竜之介」さまは商業作家として活動実績がある人、さすがに上手くまとまった作品です。

 

 

現代ファンタジーも楽しい! 地球を舞台にしているからこその臨場感、迫力ってありますよね~