SF作品35選! 【web小説】

未来! 宇宙! 不思議な装置!

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=世界観が良い!

=特に管理人のお気に入り

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宇宙

完結

星を動かす者達

361,766文字

二十二世紀後半、人類は木星系を開発していた。不足している水を確保するための計画は、小惑星を動かして氷の衛星エウロパに衝突させること!

本格的なハード系SF。軌道を計算して小惑星を数年かけて少しづつ動かして目標にぶつける、という作業は地味だけど宇宙スケールのダイナミックな展開がすごい。SFとしての様々なアイディアが詰めこまれている。

技術的な会話シーンは真面目に考えながら読むと疲れてつらいけど、まぁ私のような一般人は軽く流しても十分楽しめます。やや文章が単調で読みにくい部分もあるけど、それを上回る魅力のある一作。

 

Orbit -戦いの軌道-

56,601文字

月からの星間運動エネルギー弾で家族を殺された少年は、復讐のため宇宙軍に入った。同期との軌道兵器の訓練を終えて正式配備。そして、本格的な月面制圧作戦が始まる。

設定と物理学の計算が丁寧に行われている本格ハードSF中編。特に惑星周辺での軌道航行をメインテーマにしているのが個性的。全体的に淡白な雰囲気だけど、ユーモアのセンスもあり。

ネタバレありの感想

「じゃあ、減速かけるよ」
クイケンは驚いた。
「敵は前方だぞ」
「この距離だと、減速をかけて軌道を変えなきゃ前に進めないんだ。まあ、口で説明するより見た方が早いよ。えーと、まず反転させてっと」
ルイスは操縦桿を傾け、船を百八十度回転させた。軌道の進行方向に噴射口が向くと回転を止め、熱核ロケットを始動する。
船は徐々にその速度を失い始めた。船に働いていた遠心力が減り、重力とのバランスが崩れる。船は重力に引かれて軌道を下げていった。
仮想スクリーン上で近地点と周期を確認した後、ルイスは噴射を止めた。
「近地点が予定より少し下になったけど、高度二百キロは確保してるし大丈夫でしょ。三時間ほどで射程圏何に入るはずだから、今のうちに計算で確認しといて」
光点との距離は徐々に縮まっていった。真円だった軌道は今や元の軌道に一点で内接する楕円に変化していた。
その動きを見て、クイケンは船の挙動とルイスの意図を理解した。
「ああそうか、なるほど」
重力に引かれて落下する間に、機体は位置エネルギーを運動エネルギーに変え、元よりスピードを得ていた。

宇宙空間での戦闘と言っても作品によっていろいろとあるわけですが、この作品では「星の軌道上をグルグル回っている」のが基本的な状況。複雑かつ地味! ハードSFだからこその設定ですよねぇ(笑) 

読んでみるとしみじみ感じますが、めちゃめちゃ不自由。お互いに追いかけ合うドッグファイト! 空中宙返り! エンジン全開にして急接近! ……なんてのはすべて不可能。

しかし、だからこそのリアリティがあります。じわじわと時を待ち、好機が来た一瞬で成否が決まる。良い緊張感。

また基本的に慣性で動いているため進行方向とは無関係に機体を回転させることが可能。弱点を隠す、レーダーに映らないようにする。ここら辺の描写が実に細かく説得力があり見事です。読んでると「なるほどなぁ~」ってなりますね。最後に出てくる敵の新型機も非常にそれっぽい。

そして、けっこう笑えるシーンもあったり。

「機密のためネット接続不可はまだ分かる。しかし、だったら軍のデータベース内にアダルト・データも入れておいてほしいよな。資格や教養本じゃなく」
「各国の税金で、アダルト動画や画像を収集するわけには行かないでしょ」
「いやいや、大事なことだよ、これは」
くだらない話をしていると、部屋のドアがノックされた。
ルイスが返事をすると、ドアが開き、いつになく真剣な顔をしたスズキが入ってきた。
「少し、用があるんだがいいかな」
ルイスは頷いた。スズキは相変わらず真面目な顔で言った。
「アダルト・データをコピーさせてほしいんだが」
ルイスは全身の力が抜けていくのを感じた。
「そういう話題を真面目な顔でするのはやめてもらえませんか?」
スズキは答えた。
「何を言ってるんだ。大事なことだよ。これは」

いやまぁ、男にとって長旅のお供としては重要ですけど(笑)

やや読みにくい文章に、キャラ描写は非常に薄味。万人向けとは言えませんが作者さまのSF愛・科学愛を感じる作品。

終盤にキャラが死にまくるのは唐突すぎて現実感が無い。だけど、それは主人公の気持ちと重なっている。その時はスルーしちゃうけど、読み終わってから生き残りの少なさがじわじわ来ますね。

連載中

輸送戦艦SPACE-DEBRIS

輸送戦艦SPACE-DEBRIS(荻原 数馬) - カクヨム
スペースオペラじゃない、スペースロックンロールだ。

126,538文字

西暦2800年、宇宙大航海時代。第三宙域では海賊が跳梁跋扈し軍が不正を行うことが日常茶飯事と化していた。そんな場所で、最新鋭の戦艦を使って運送業を行っているアウトローたちの物語。

ハードボイルド&下ネタ。暗い過去と宿敵。男のロマンと義理人情の熱いストーリー。作者さまいわく「スペースオペラならぬスペースロックンロール」、まさしくそんな感じ。

元々は別の場所で連載されていた物語のリメイク版とのこと。原作は完結済みなので、こちらも安心して更新を待てるのも嬉しい。

空想科学

完結

脳仕掛けの楽園

333,905文字

脳によって魔力を行使する世界。ならば、他人の脳を奪って使えば効率がいい! 誰かが唱えた糞理論の元、今日も脳の奪い合いが行われている。突然に始まった2国間の戦争、殺される人々、失われた平穏。記憶喪失の少女「シーエ」は戦うことを決意する。

サイバーパンク的な設定がめっちゃ良い! キャラクターたちもかなり濃くて存在感あり。主人公はズタボロでド変態。そして設定ゆえ戦闘シーンはグロいけど、だからこその臨場感と悲壮感。

メインテーマである、色々な「失う」シーンも描写が丁寧で胸を打たれます。またハイレベルで超かっこいいイラストも挿入されているのもすごい!

ネタバレありの感想

もうね、始まりからしてセンス抜群で迫力満点なんですよ。

何が起きたのか全く分からない。何が起きたのか、どころではない。何もかもがわからない。
気が付いたらウチはここに立っていて。そして、そして目の前には。

女性の生首が、転がっていた。

新鮮な生首だ。つい先ほど体から切り離されたのだろう。血がまだにじみ出している。

ウチは慌ててその首に駆け寄り、持ち上げようとして。そして。ウチには左手が無かった。二の腕あたりが猛烈に傷む。昔からの傷ではなく、今さっき出来た傷の様だ。新鮮な肉の間から骨が飛び出し、血が滴っている。この生首と同じだな、なんて少しおかしく思った。

まあそんな事はどうでもいい。ウチはさっと止血をし、痛覚を一時的に遮断し、目の前の生首に注目する。
右手でつかみ、無い左手の分は稼働魔力によって固定する。そのまま稼働魔力を利用して頭蓋を露出、切り取り、脳を摘出する。
素早く背中にセットし、脳が新鮮な状態に保たれ、カロリーが供給されるように出来たら処置完了。ウチはやっと安堵を感じた。

何に安堵を感じたのだろう。そもそもこの行為はいったい何なんだろう。何故ウチは人の生首から脳を摘出し、保存したのだろうか。
何もかもがわからない。

だって、ウチには全ての記憶が、無いんだから。

どうです! この冒頭文! web小説の始まり方としてトップクラスにショッキングで謎めいている。面白そうな気配がガンガンしてきますよね。そして実際にめちゃ面白い。

キャラクターたちもかなり濃くて存在感あり。主人公はズタボロでド変態。美少女だけど露出狂で下ネタ大好き。かなり笑わせてくれます。

しかし、記憶喪失であり新しい記憶も1か月しか持続しないという過酷な状態。
そして戦争によって知り合いが死んでいく悲しみ、残された人の苦しみも丁寧に書かれている。
親しい人が失われる、そして思い出すら自分の中から失われていく。そんな状況でも生きていく主人公には心揺さぶられます。最終的な判断も個人的には共感はできないんだけど、理解はできますね~。そりゃそうする人も多いでしょうな。

ストーリーも見事。序盤から謎と伏線をちりばめつつ上手く回収しています。割とミステリーな雰囲気というか、動機と真相を考えながら読むのが楽しい。読み返すとヒントの出し方に感心しちゃいます。

そしてイラストが超すごい。絵で仕事されてる人らしく、すごくレベル高いですよ。主人公たちは失った体の部分を機械化してて、めっちゃイラスト映えします。デザインもセンス抜群で本当にすてき。

あと、物語本文ではなく作者さまの言葉にもとても印象が残るものがありました。
引用すると

たぶん、一部の人には劇的な共感を、多数の人には批判を。そんな結末を目指してます。

すばらしいと思いませんか!? 個人的には大好きな創作論です。
特にこういう悲しくダークな物語の場合、八方美人で終わると薄くなってしまいがち。いっそ賛否両論ぐらいに尖っているほうが記憶に残る。作者さまの方向性に共感賛成!
いやまぁ、割と強烈に後味悪いから拒絶する読者が出るのもしょうがない感じではある。だがそれがいい。

設定・キャラクター・ストーリー展開・イラスト、どれもすばらしくハイレベルな実に魅力的な作品です。

 

「「神と呼ばれ、魔王と呼ばれても」」

272,810文字

遥か未来の地球。1人で島に住む少女は太古に栄え宇宙を支配していた旧人類最後の生き残りであり、その技術力で神のごとき絶対的な力を持っている。ある時、少女は気づく。「魔法」という新しい技術を使いこなす新人類が誕生しつつあることに。

壮大なスケールで始まるSFファンタジー。少女は超越者であり観察者。ひたすら見ているだけ。それに対して、新人類は少女を神と呼んだり魔王と呼んだり宗教を作ったり……

すべては勘違いであり茶番とも言えますが、それがリアリティであり作品の魅力でしょう。少女の言動はやや臭く、感情移入しやすいキャラクターではない。でも長きを生きすぎた超存在なんだから当然。ちょっと読む人は選ぶかもしれませんが、アイディアがすばらしい物語。

 

中世騎士と宇宙世紀科学者 ~ファンタジーとSFの異文化ラブコメ! ゾンビ世界でグルメ開拓スローライフ!?~

178,763文字

研究者型クローンの少女「アメノ」は未知の惑星に不時着する。そこには謎の技術である魔法が存在し、さらにはゾンビの発生で人類文明が崩壊していた!? 出会った青年騎士と共に人々を救出しながら生活圏の確保を目指す!

物語の基本路線は異世界転移&チートの系列。SFと言いつつ内容的にはほぼファンタジー。しかし、とても個性があって面白い。主人公アメノの技術・行動原理はしっかりSF的だし、ボケまくり有能ヒロインとしてもすごくキュート。青年騎士との常識差によるスレ違いまみれの恋愛もすばらしく甘い。他の登場人物も良いキャラ立ち。個人的には世界皇帝&少女たちのゆるすぎる雰囲気がたまりません。

ネタバレありの感想

調査中に遭遇した謎の特異点の調査データに加え、完全に未発見であったこの星の文化データを持ち帰るためには、あの現地人のオスとの接触および、ウサギ肉の串焼きを食べることは全体最適になるはずである!!

調査船のエネルギー供給を汎用精製機に回す。錆び剣の元素を抽出して、三次元原子加工機レプリケーターに転送。用途に最適化すべく、部分部分の原子構造を調整する。

まずは切っ先部分は強度を確保するために主材料の鉄の結晶構造を調整し、他の金属元素を適宜挟んでいく。あまりきれいな結晶だとずれやすくなるが、違う金属元素を挟んでおけばズレが生じにくくなり硬くなるのだ。これで薄くても強度が出る。

逆に根本部分は粘り強さを高めるため、鉄の純度を上げていく。結晶構造を均一にすることで変形しやすくし、打撃時のエネルギーを吸収させるのだ。強度が下がるが、その分厚みを増しておく。

「フネで身体洗浄が今はできない。体の洗浄の方法を教えてほしい」
「いや、そんなの服を脱いで池の水をかぶるだけだろう? ……っていうかここで脱ぐな?!」

「なぜ???」

「そういうのは岩陰に隠れてするの! っていうか水浴びも知らないって今までどうしてたんだよ?」

「ベッドに横になればあとはやってくれる」
「召使にやらせてたのかよ?!」

アメノさんはクローン少女。科学技術はインプットされてるけど、常識と生身での生活経験はゼロ。無防備すぎて色々と危険! 今までは人口完全食だけしか知らなかったけど、初めて食べる天然料理に狂喜乱舞!

すごく魅力的なキャラ造形で、今まで読んできたweb小説の中でもトップクラスに好きなヒロイン。SF的なギャグを連発。本当にかわいい。

ラブコメとしても完成度高いです。アメノさんはかなり初期からベタぼれ。でも知識が無いから自分の気持ちがまったく分かっていない。騎士さんも両想いっぽいとは感じてるんだけど、アメノさんがマイペースすぎて進展しない! と思っていたら無知ゆえに不意打ちでベタベタしてくる!? めっちゃニヤニヤしちゃいますわ~。

終盤の締め方も実に見事。まず序盤の伏線を回収してSFとしての厚みを増している。最初に1回だけ出てきた珪素代謝生命群がゾンビの正体とはねぇ。なるほどなぁ、感服しました。

メイン2人の関係性もすばらしいハッピーエンド。量産品だったクローンが自分1人の確固とした生き方を見つける。定番だけど燃えて萌えます。読後感が良い。

長くてカオスなタイトル、しかし各要素をそれぞれ高品質に書きつつ上手く融合させている。ノリと勢いだけじゃない、作者さまの確かな計算力と文章力を感じる作品です。

 

魔法少女 ミラクル★オラクル  最終話「正義が、愛に敗北する日」

魔法少女 ミラクル★オラクル  最終話「正義が、愛に敗北する日」(呼吸する器具) - カクヨム
最終話から始まる物語。――この世界に、魔法少女はいない。

160,935文字

突如として人類を攻撃してきた超存在「戒獣」たちを、魔法少女は自分の存在そのものを犠牲に撃退した。残されたのは人々が魔法少女を忘れた世界。その中でただ一人だけ、彼女を忘れなかった少年は何を思うのか?

すでに魔法少女が犠牲となって消えてしまった時点から始まるのがおもしろい。過去編のバトルシーンもすごく楽しめます。戒獣たちの異質さと脅威が伝わってきて、どいつもこいつもエグいエグい。各種用語・論理なども上手く組み立てられていてSFとしての雰囲気付けもばっちり。キャラのセリフ回し、用語の使い方、物語の構成、バトルシーンの迫力……すべてが高水準な作品です。

ネタバレありの感想

世界中の人々が彼女を「世界を救う魔法少女」としか見なかった状態で、1人だけ対等な人間として友情と恋を育んでいた主人公。自分だけが「万理」を覚えてる状態で、何とか思いを受け継いで前向きに行こうとする心理描写が魅力的。

~~~

ビッグな夢があるわけじゃない。自分の将来なんて、前の宇宙では考えたことがなかった。その余裕もなかった。
やりたいことを無理にでも思い浮かべるとすれば、それは万理の最後の望みを叶えることだ。
あいつは俺にも、この平和の中を生きてほしかった。この当たり前の平和。退屈で、凡庸で、誰も有難がらなくて、でも前の世界じゃ誰もが求めて止まなかった平和。クソつまらない日常をクソつまらない人間として生きられる幸せを、人々が全力で享受してくれるのが万理の望み。
だから、寂しいとか思ってはいけない。
あいつの末路に、悲しみや怒りを抱いてはいけない。
笑え。

~~~

「彼女が自分の幸せを願った」のだから、「自分は幸せにならなければいけない」。こういうの好き。

そして、もう片方の主役である魔法少女の万理さんも実に良いキャラしてます。たった1人で人類を救う責任と重圧に耐えられるだけの超人的な善良さ。しかし、怒り・悲しみ・あきらめなどの人間らしい感情もしっかりと持っていて親しみやすいというか。けっこう下ネタとかも言っちゃったり。

また、過去の情報として挿入されてくる戒獣と魔法少女たちの描写はダイナミックで迫力満点。

~~~

七歳の幼女が、目の前で家の半分ごとバケモノに両親を喰われ、引っ張って逃げようとする俺の腕から掻っ攫われて、自分も家の残り半分ごと喰われた。
忘れ得ない。体内に無限の空間を持つ戒獣、ヒルベルト。大小数万にも及ぶ立方体で構成された、長大無機質な銀色の龍。飛んできた一辺四メートルくらいのキューブから、水銀みたいな触手が伸びて人を絡め取って飲み込んでいった。あの頃人類にはまだ戒獣への対抗手段がなかった。だから間一髪で助けてくれる魔法少女なんてのもいなくて、両親と八紘は助からなくて。ああ、ああ。
「どしたのカズ兄、肩ぷるぷるしてるよ。具合悪いの? 風邪ひいた?」
八紘の声は昔と変わっていない。この声で、俺の手からもぎ取られた七歳の八紘は泣き叫んでいたのだ。やだああカズにいたすけてたすけて――叫びながら呑まれていった。何年も悪夢に見続けた。

~~~

ううむ、想像するときつい。いわゆるアクションシーンじゃないけど第9戒獣による世界ループの描写もえぐいっすよなぁ。

また、魔法少女が「魔法少女」である理由もちゃんと書かれており作者さまの丁寧さが感じられますね。そのほうが人気になるからっていう(笑)

そして、終盤の展開とタイトルもすばらしい。怒涛の展開を読み終わってみれば、なるほど。確かに本作品は

魔法少女 ミラクル★オラクル  最終話「正義が、愛に敗北する日」

ですねぇ。自己犠牲による「愛が、正義に敗北する日」が先に合って、それに対するカウンターパンチとして愛のために主人公は世界を滅ぼす。これだけタイトルが内容を適切に表している作品も珍しい気がします。これ以上のタイトルはまったく思い付きません。

 

死者、インゴルヌカにて

死者、インゴルヌカにて(富士普楽) - カクヨム
反魂の都で、弔いびとは生者と死者の声を聞く。

156,837文字 (なろう版

死体に新たな魂が宿ってしまう「ゾンビ」と、科学技術によって発明された動く屍「ワイト」。そして死者たちの暮らす街「インゴルヌカ」。世界観が異彩を放つネクロ・パンク!

ファンタジーともSFともいえる設定だけど……内容的には近未来SFでしょうか。とても描写が良く作品世界に引き込まれていきます。

ストーリーも中々に本格的な人間ドラマ。凄惨な事件、明らかになる過去の秘密、家族の絆……ずっしり重い。登場人物たちは過去と死にどう向き合っていくのか?

ネタバレありの感想

とにかく世界観が珍しくインパクトがある。「死体にまったく別の人格が宿ってしまう」というゾンビの設定はすごい。

――〝ゾンビ(偽生者)〟。

死んだはずの人間が、記憶も肉体もそのままに、「人格だけ異なるゾンビ」としてよみがえるようになって早百年。迫害され、時に虐殺され、逃れに逃れてたどり着いたのがこの地だ。インゴルヌカは初め、ゾンビたちの保護と研究のために生まれた。

魂というものがあるとするならば、対となる体を持たず、故人の使い古しを押し付けられた霊的弱者。彼らは多少の「変異」を別にすれば、常人とまったく変わらない。生きて、自我や記憶を持ち、子孫ももうけられ、老いもする。

すべての人間は親から生まれるはず。しかし、ゾンビはいきなり他人の死体に宿ってしまう。親も兄弟もいない。魂としての天涯孤独。
初めは周囲も「あの人が蘇った!」と喜んでくれるが、徐々に別人だと理解し、化け物だと迫害し始める。
「ピアノと少年の場合」という話の描写は、想像するとつらすぎてやばい……
ゾンビの設定はなんとも悲哀があり、すばらしい発想です。

また、死者の町インゴルヌカの描写もとても良く作品世界に引き込まれていきます。

市のメインストリートでは、多くの霊柩車が行き交っている。屋根に輝く神殿を乗せた宮型があれば、リムジン仕様やロールスロイスの高級型、胴体が棺桶と一体化したバイクや三輪型トライク、クラシックカーもあれば派手なペイントのスーパーカーもあり、はては馬車型やドラッグレーサーまで。
そして……異邦人ならば気づくだろう、この街に染み付いたマカル・インセンス反魂香の匂いに。屍肉の生臭さ、血の鉄臭さ、薬物の芳香。それらが熱さ冷たさの交わり切らない、生煮えの心地で絡みあう、生と死を有耶無耶にするその香りに。
だが、死者の都という肩書きに反して、道行く人々は魚のように活発だ。淀んで腐った水槽から、美しい大海原に解き放たれた魚が、わき目もふらずに自由と生命をまっしぐらに生きている。

脳内にイメージが浮かびます。他の人も言ってますが、映画にしても良い雰囲気でしょうねぇ。

ストーリーは敵の存在感が薄いのが気になるけど、まぁいいんでしょう。戦いよりも「過去と死にどう向き合っていくか」的な部分のほうがメインテーマだと思いますし。ミンチメーカーの真相は中々に衝撃的で心揺さぶられるし、父親との最後の別れのシーンも見事。

個性的な設定が光る、良質なSF作品です。

 

横浜駅SF

横浜駅SF(柞刈湯葉) - カクヨム
横浜駅が自己増殖して日本列島を覆い尽くす未来小説。

155,046文字

増殖しつづける横浜駅に飲み込まれた未来。エキナカの人々はsuicaによって駅に管理され、登録されていない外の人間は狭い地面の上で細々と暮らしている……

無料で読めるweb小説としては珍しい本格SF。筆力があり、ギャグっぽいけど読んでみると作りこまれた設定に引き込まれていく。終わり方にもリアリティがあっていい。

ただし、キャラクターの掘り下げは少ない感じ。登場人物よりも世界観・SFとしての設定を楽しむ作品。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

キャスカル

お探しのページは移動または削除されました - カクヨム

140,528文字

人類が機械の翼で空を飛ぶようになってから百年と少し。レーダーを妨害する物質のせいで、戦闘機は接近戦を強いられていた。再び始まる戦争。「キャスカル」と呼ばれる、加速Gに強い特殊な少女たち。そして、彼女たちを迎え撃つ1人の少年の物語。

ここが空だ。これが自由だ。――― 空を愛するパイロットたちの深い心理描写に引き込まれる。戦争ものでありならが、静かな感じと言うか。彼らにとって戦争なんてものは地上の話であって、空には空の世界がある。しかし空中戦の描写は本格的であり熱い。

 

深海シティ4cb8e7

深海シティ4cb8e7(戒めツブヤ) - カクヨム
眩しくなったら、その眼を潰してしまえばいい。

139,024文字

海面の上昇によって地球上の陸地がすべて水没した未来。人類最後の生活圏は、南極の冷たい海に浮かぶ氷上国家。その中では海中に適応できる「人魚」を生み出そうと研究が続けられていた。厳しい管理と、隠された実験。主人公たちは社会に翻弄されてゆく。

人類を人魚にしていく途中、という設定がおもしろい。1話めから引き込まれる。また謎と危険だらけの物語が極寒の舞台によって一層引き立てられている印象。全編を通して良い緊張感と幻想的な雰囲気。氷・吹雪・冷たさ、こういう単語が持つイメージってあるもの。大げさに描写しなくても自然とディストピアらしい空気が作られている

ネタバレありの感想

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白い髪に金色の瞳、この国の人口の八割に至るその配色を持つ人々は、人魚の成り損ない――〈テンシ〉である。クジラと人間の遺伝子を半分ずつ持っている半魚人は、姿形は眼と髪色以外大差ないが、海の中で長時間息が出来たり、寒さにとても強かったりという身体的特徴を持っている。

人魚の成り損ない。

そう、この国は人魚に成ろうとした。人魚に成るために建てられた国なのだ。

~~~

いい文章ですよねぇ、序盤から作品の個性がググっと伝わってくる。白い髪・金色の目・クジラの遺伝子……頭のなかでイメージが膨らみます。

そして、都市を支える巨大氷もどんどん溶けてきているらしく、そもそも国レベルで時間がない。主人公たちだけでなく、国家全体の結末も気になってしまう。設定まわりが見事なセンスです

加えて1つ1つのシーンも美しく、特に海中のシーンは作者のこだわりを感じました

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彼は、海遊が大好きだった。時間を見つけては海の中に潜り、この非常に冷たい海域に住む生き物を愛でている。

この冷たい海にはシャチやクジラなど、二十三種類の水棲哺乳類がいるが、彼の目当てはそれらではない。オワンクラゲやカブトクラゲ、そういった発光生物や、ウミウシと呼ばれる非常に小さなナメクジのような生き物だ。

ウミウシを見つければその岸壁にへばりつき、光るくらげを見つければぼうっとその景色を眺める。

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水中の表現だけでなく、海の生物の固有名詞が出てくるのがリアリティ。なんというか描写が細かい。作者さま自身の海好きが伝わってきます。

個人的に鳥肌が立ったのが、深海遊泳 2/2。イルカたちに祝福される人魚……主人公たちと一緒に「新しい時代」を目撃した感がある。鳥肌が立つほどのシーンはweb小説でも珍しく貴重。

また、メイン5人の日常パートはとても仲良しでほっこり。隠れ家的なバーで過ごす仕事終わりの時間、そこで出会った友人たちと遊びに出かける友人。ロマンでしょう。

ディストピア系作品にふさわしく、主人公たちも割といろいろと隠し事をしてるんですよね。友人にも話せない秘密がある。だけど互いにそれを察していて、それでも一緒にいる時間を心から楽しんでいる。

そして日常パートが明るいからこそ、それが崩壊していくのがつらく、何とか友人を助けようとするのに強く共感。メリハリが効いている、というか。

最終的な終わり方も個人的には好み。余韻がありますねぇ。ちゃんと人魚は完成して、人類は新たな時代を迎える。主人公たちだけでなく国家側もなんだかんだ希望あるハッピーエンド。

味わい深い状況設定をしっかりと書ききった作品です。

 

自分ドロップ

お探しのページは移動または削除されました - カクヨム

133,299文字

無能で、コミュニケーション能力が低すぎる。34年の人生は辛いことばかり。そんな男が性格を改善するという薬の治験に参加したのだが……

かなり珍しい2人称小説。物語は「お前」に対する語りとして進んでいく。この特殊な進行を可能にするアイディアがすばらしい。正体が分かった時の驚きはかなりのもの。文章力も高く言葉の選び方にセンスを感じます。精神的にかなりきつい描写も多く、読んでて疲れるのは注意。

ネタバレありの感想

もちろん、お前の汚らしい人生は灯りがあろうがなかろうが、超然とそこに存在し続ける。
お前もそれをわかっていた。なんの解決にもならない。事態は悪化するばかりだ。バッドからアルティメットバッドへ。水もお前の人生も、高い方から低い方へと流れて行くんだ。ウォータースライダー。叫んでいるうちにプールにドボン。
お前の人生はそういう感じだ。

2人称小説! これはめったに見ないですよ。少なくとも私は初めて読みました。探せば他にも色々とあるんでしょうけど、逆に言えば探さないと無いくらいには珍しいはず。

まぁ、厳密に言えば「変則的な1人称小説」なのかもしれませんが。「俺」が「お前」に語るという構造ですからね。それにしても個性的な雰囲気。やはり工夫と独創性がある作品は印象に残ります。

何がどういう状況なのか、さりげなくサラっとネタバレされるんだけど、そのさりげなさがとても良い。大げさにしてないからこそ迫力が増しているというか。上手いです。

文章力も高く言葉の選び方にセンスを感じます。「文章」ではなく「語り」の空気で、物語のアイディアによく合っている。

そして、ストーリーはめっちゃ重い。自分は普通に生きられないのか? 今までの自分の人生は何だったのか? もう自分に希望は無いのか?

あの人。あの子。
お前はいつでも、どこでも、そういう存在だ。
お前のことを名前で呼ぶ人間は親以外にいたのか?
もちろん、いないな。わかっていて言ったんだ。
お前が最後にあだ名で呼ばれたのは小学校の4年生。まぁ、「キモゾンビ」をあだ名で呼ぶとしたらの話しだが。

うぐぐぐ……ちょっと身に覚えのある人間としては精神をえぐられるシーンが多すぎる(笑)

エンディングも考えさせられますね……まぁ、個人的には全員が薬でまともになればそれはそれで上手く回る気もしますが。でも人類みんながサイコパスみたいな感じになるからなぁ。どうなんでしょうか。

奇抜なアイディアを高い文章力と巧みな構成によって形にしている。これを書きあげる作者さまは相当なセンスの持ち主。存在感のある、読んだら記憶に残る作品ですね。

 

秋葉原発! ヘリカルコイラー∞フューナ

96,835文字

小学五年生の「柏崎冬奈」は、テレビで取材をうけたことをきっかけに核融合親善大使に任命される。そして、送られてきたのは科学の粋を結集した変身ユニット!? しかもそれを悪用して嫌いなものに核制裁を実行!? 同時に謎の存在が不穏な動きを始め……魔法少女ならぬ科学少女バトルコメディ。

敵味方ともにゲスいやつが多い(笑)。コメディだけど内容は割とブラック。主人公もかなりのクズっぷりを発揮するのでそこは注意かも。原子力を使った戦闘場面はダイナミックで爽快感たっぷり。そして大惨事。核融合に関連する言葉の説明も多いですが、工夫をしてあり読みにくさはあまり感じないはず。

ネタバレありの感想

「ああ! よく似合うじゃない、冬奈ちゃん! いや、これからはもう、核融合親善大使ヘリカルコイラー∞フューナだね! 如何かな、フューナちゃん! 現代の最先端技術と五〇億ドルの開発費を投じて製作されたヘリカルステッキの使い勝手! それにヘリカルコイラー専用の特注エナジースーツの着心地は?」

ヘリカルコイラー∞フューナは、姿見の鏡の前に立ち、自分の変身した姿をしげしげと眺めます。
「センスないわね……。何? この腹巻みたいなのは?」
「ああ!? 大事に扱ってよ! それが核融合炉の心臓部、ヘリカルコイルなんだから!」
だぶだぶと余裕のあるコスチュームのお腹周りには、ねじくれたコイルが輪を作っていました。

腕章が光り、『劣化ウラン弾装填』の文字が浮かび上がります。
「撃て! 劣化ウラン弾だ!!」
ネプニムの合図に従って、ルミナちゃんは劣化ウラン弾を自衛隊の戦車に向けて発射しました。放たれた劣化ウラン弾は戦車の装甲を容易に貫くと、持ち前の焼夷効果を発揮して、装甲を溶かしながら車体に穿った穴を大きく広げていきます。

「すっごーい! 劣化ウラン弾って強いんだねー……。一発で戦車に穴が開いちゃった」
ルミナちゃんはその貫通力に心底感心しながら、劣化ウラン弾を雨の如く撃ち続けます。この攻撃に、機械歩兵部隊は不利を悟ったか、慌てた様子で撤退していきます。

女子小学生が核融合炉付きのコスチュームに変身(笑) 劣化ウラン弾を撃ちまくる(笑) いや~、インパクトありますね。

しかも地の文が絵本みたいな優しい口調なのが、内容のヤバさを引き立てている。良いセンスです。ほのぼのに見せかけて普通に人が死んでるし放射能汚染も起きてるんだよなぁ。

クソ雑な判断で一般人の少女に最先端スーツを渡す、遊離戦隊スカベンジャーが俗っぽすぎる、司法取引で逃げる主人公などなど……ほんとダメ人間多数。

タイトルもなかなかに上手い。「秋葉原発!」は、~~~からという意味の「秋葉原・発」と、原子力発電所という意味の「秋葉・原発」のダブルミーニング。センスありますね。

2重3重にも危ないネタを毒気たっぷりに書いている。作者さまの個性が光るSFブラックコメディです。

 

アント・ワーカーズ

76,353文字

巨大な迷宮が発見されて、はや三百年。内部には未知のオーバーテクノロジー群と、鋼の化け物どもが犇めいていた。人類は彼らに対抗するため、敵の素材と発見した技術を組み合わせた武装多脚砲台「アントリオン」を作り上げ、危険な迷宮探索に挑み続けている。

個性豊かな少女3人組が、どったんばったんと大活躍。これぞアクションライトノベルの雰囲気。マニアックだけど多脚戦車もロマン兵器ですよね。剣と魔法でも、人型ロボでもない。脚を使って跳ねまわるバトルシーンはとってもスピード感があって迫力満点。

ネタバレありの感想

キャラ付けはある意味古典的で、なんというか90年代の息吹を感じます。「~にゃ!」という猫語尾キャラとか、一周回って珍しいような。

~~~
水切り石のように跳ね飛び着地、ようやく停止(とま)ったかと思えば即座に再度の跳躍。稲妻の如き鋭角な連続跳躍に、骨が軋み、筋肉が圧迫され、内蔵が悲鳴を上げる。盛大に混乱する頭で、何が起こっているのか、と考えた矢先に、
「――あっぶにゃー! ぎりっぎりぃ!」
テクノギアから響くクレアの弾んだ声音を耳にして、遅まきながら冷や汗が吹き出してきた。
助かった。並のドライバーならば、初撃で両断されていたところだ。

~~~

どくん、と鼓動の音を一つ置いて、まず最初に色が消える。ついで音が。
自分と世界とを分かつ境が消え、引き金と獲物だけが残される。
天地真逆の視界の頂点、切断マンティスの複眼がこちらの姿を捉え、旋転を開始する。
高速で振動する、二対のスペクトラム・ウィングの羽ばたきすらも見て取れる。
まるで、周囲の世界がまるごと蜂蜜に漬けられてしまったかのように。
ゆっくり、ゆっくりと進む時間の中で、ルトは引鉄に手を掛ける。
あれだけ燃えていた敵愾心すら遥か彼方。
後はもう、トリガーを引くだけで、
そう思った時にはもう、トリガーは引かれていた。

~~~

機体の動きだけじゃなく、セリフとか心理描写も上手いんでしょうか? 戦闘シーンの書き方はかなりレベル高いと思います。

そして、個人的に好きなのが設定の見せ方。この作品、専門用語がほとんど説明されないんですよ。「ビショップ級」とか「王立多脚砲台専門学園」とか、いろいろ出てくるけど細かい説明はなし。

つまり「無知な質問者」が出てこない。だからこそ話のテンポがすごく良い。

『あの~、○○ってなんですか?』
『ええ、そんなことも知らないの?』
『すみません、田舎者なので……。』
『しょうがないわね、○○ってのは……』

こういう、シーンが無いんですよ。だからこそキャラクターたちが活き活きとしている。

現実世界で考えたら分かりやすいでしょう。

『あの~、アメリカ合衆国ってなんですか?』
『ええ、知らないのか? アメリカ合衆国というのは……』

なんて不自然な会話でしょう(笑) キャラたちが知ってて当たり前のことを「当たり前」としてわざわざ説明しない。これを一歩間違うと読者が置いてきぼりになって意味不明になるけど、この作品は書き方が上手く雰囲気でしっかり分かるので大丈夫。

読者に向かって細かく丁寧に書いてくれる小説も良いけれど、この作品のように「別世界の話なんだ、ちょっとぐらい分からんことがあってもノリで楽しめ!」というのもステキ。

設定、設定の見せ方、バトルシーン。書き方にすごくセンスのある作品です。

 

ジェットステルス戦闘女子高生

72,526文字

気がついたらジェットステルス戦闘機だった。日本に暮らす女子高生「永瀬恵」は、いきなり自分が戦闘機になっていることに気付く。一方で、最新鋭戦闘機のAI「カムイ」も、自らが女子高生になっていることに愕然としていた。入れ替わった2者の生活と、その真相。

戦闘機になる、というアイディアが面白い。ギャグのセンスがあり入れ替わった時のカオスっぷりが笑える。そして軽めの前半に対して、後半の真相パートは重め。戦闘描写も見事だし、伏線を回収しつつ入れ替わりをSF的に上手く説明していて満足感があります。

ネタバレありの感想

「すっごーい! なにこれー!」

どこかで聞いたことのあるような歓声を上げながら、恵は調子に乗って自分の体――機体を動かしてみた。戦闘機など操縦したこともないが、今は戦闘機になりきっているからなのか自然と手足を動かすように機体を操り動き回ることが出来た。螺旋状にロールし、急にピッチアップし、ついでに機関砲発射だー、えい、バババババー!

ヴォォオオオオオオオオ!

意志に応じてか、エアインテーク側面に内蔵された25mm機関砲が毎分3500発の速度で射撃を行う。

「わ、ほんとに出た!」
『ほんとに出たじゃねぇこのクソ弩級馬鹿野郎! なに撃っちゃってんだよ!』

付近を飛行していたらしい別の戦闘機から絶叫気味の声が飛び込んでくる。

訓練を監視する関係者各位は、流れてくるF‐37ヘイルストーム無人AI型・搭載AIカムイから流れ込んでくる情報ログに一様に困惑の表情を浮かべていた。本来カムイから発せられるメッセージは必要な戦闘情報などに限られるはずだった。カムイは単なる制御ソフトではなく非常に広く思考し判断できるAIであるため自由会話も可能だが、戦闘モードにおいてはそんなことはしないはず、だった。

「なんで念仏を唱えているんだ、あれは」

いや~、ギャグセンスある(笑) 戦闘機のAIがいきなり女子高生になったら、そりゃ周りは混乱しますわな~

そして、真実が明らかになっていく時の盛り上がりはすごい。永瀬恵の持っていた戦闘機としての記憶は、カムイから分け与えられた情報。カムイの記憶はシュミレーション。なるほどなぁ、って感じ。荒唐無稽のファンタジー要素に見せかけてリアリティのある仕組みに落とし込んでいる。

終わり方は苦い。しかし、だからこその余韻があって私は好きですね。

ギャグとシリアスの配分、1発ネタで終わらない構成力。無駄のない文字数でSF作品として見事にまとまっています。

 

博士とセーラの交換日記

50,407文字

1人の人間と1体のアンドロイドによる日記。成長していくセーラ、資源の限られた地下都市の生活、ゆっくりとだが進行する地上の再生。はたして結果は?

日記形式なのがセンス抜群。基本的にほのぼの。しかし、厳しい状況も徐々に明らかになっていく。優しく温かい雰囲気とSFならではの重苦しい展開が見事に同居している作品。世界観としても壮大であり、その切り取り方がすばらしい。

ネタバレありの感想

文章力があって「日記」な雰囲気が上手く出てます。

そうそう、そういえば昨日は流星群の日だった。
観測はできなかったけれど。
折角の機会だから、セーラと天文学の勉強をした。
セーラは凄いね。みるみる学習して、どんどん賢くなっていく。
彼女を見るのが最近の楽しみの1つだ。

……って、あれ。
そろそろ1ページ埋まってしまうな。
……なんだかしまらないけれど、まあ、日記だしこんなものでいいか。

良い表現力! 書いているキャラの感情がよく伝わってくるというか。

そして、設定も本格的。どうやら地球とは別の星であり、しかも地表は汚染されている様子。

なんて言ったらいいのかなあ。
5年。5年経った。けれど僕らは、まだ空から遠い場所に居る。
今8歳の子供は、空を覚えていない子が多い。今5歳の子供は、そもそも空を見たことが無い。
それから、γ地区の一角に、黒い布が垂らしてあった。誰かが亡くなったらしい。その誰かは、空を再び見ることなく亡くなった訳だ。パーティに来ていた人達も、何人か、それをとても悲しんでいたよ。
『再び空を見ること』は、ここに居る全ての人達の願いだ。
それは僕も知っていたつもりだ。
けれど、『初めて空を見ること』すらしていない人が居て、そして、彼らがそもそも、『初めて空を見ること』を望むことすら知らない、という事は、初めて知った。

リアリティのある描写ですねぇ……過去との断絶、文明の崩壊がものすごく伝わってくる。

人々の地下都市での生活を詳細に書けば、いくらでも話が広げられそうな設定。途中で結婚式の様子とかも出てきて、厳しい状況でもまだまだ人々が生きてることが感じられる。そして人々が死に絶えていく末期の状況なんかも、すさまじい悲劇が起きているはずだし。でもそれは語られない。あえて2人の日記だけに限定してある。

広い世界を少しだけ見せてるんですよね。残りの部分は読者の想像に任せる、読者に想像の余地を残す。終盤になって明らかになる真相もそうだけど、情報の出し方がめっちゃめちゃ上手い。

まさかセーラのほうが人間であり、しかも300年たった未来とは。読み返してみるときれいに伏線が貼ってあり納得。真実を知ってから読むと味わいが増しますね。たった1人だけで日記を書いていたセーラ、孤独だったことでしょう。でも最後には再会できてハッピーエンド! 実に読後感が良い。

 

銀河歴1234年珍兵器博物館

25,270文字

遠い未来、銀河大戦の末に人類が滅びかけている時代。砂の惑星に流れ着いた主人公はとある建築物を見つける。そこは兵器の博物館。少女型の案内ロボから聞かされる、喜劇と悲劇の数々。

1つの兵器についての話は1000文字以下、非常に読みやすい1話完結形式。いろいろな兵器が登場し、それにまつわるエピソードも多彩! 悲劇的で血みどろの事件から、笑ってしまう大失敗ロボットまで。出てくる物品は実に42個! 作者さまの豊かな想像力を楽しめます。

ネタバレありの感想

~~~

「“流れ星”は、敗色濃厚な戦争の末期、負けを悟った星の住人たちが母星を改造して誕生しました。これは惑星を弾丸にして敵対勢力の星に叩きつける兵器として完成したものの再現ホログラムです。ワープ機構を星そのものに搭載するという規格外の兵器で、唯一無二のその性能は兵器マニアの一部の方々から熱狂的な人気を誇っています。莫大なエネルギーは星の核から熱エネルギーを吸い上げることで賄われており、これを撃ち込まれた際の被害規模は想像もつきません」
「成功したの?」
「伝聞によれば」

~~~

「これは?」
「見てのとおりですね。『遠距離と近距離を合体させたら強いんじゃないか?』と」
「そんなわけないだろ」
どう見てもどちらかが邪魔である。
「近接戦闘機として運用された場合は狙撃銃がデッドウェイトになり、狙撃用として運用された場合は剣の方がお荷物になってしまいました」
そりゃそうだ。

~~~

ユーモアがあってリズミカルな文章。兵器と戦争の話なのに軽い読み味。しかし、重くないからこそ悲劇の凄みが増している気がします。

そして、物語としての終わり方もグッときます。展示を見終わったあとの主人公のセリフ

「忘れないでほしい」

何ともステキ、ここでその言葉が出てくる作者さまのセンスはすばらしい。読んだ瞬間に鳥肌が立ちました。相手に対して忘れないでほしいと思う、これは最高級の賛美かもしれませんねぇ。「忘れないでほしい」と思える瞬間、ロマンです。

しかし、少女型ロボも時間の流れのなかで壊れて忘れてしまう。美しい思い出として強く記憶されていたはずなのに。悲しいからこそ美しく印象深い展開。

ただの展示ではなく「博物館」なわけで、兵器と戦争だけでなく「過去と郷愁」もテーマなのかも。サクッと読み終えてしまえる短編ながら、見事な広がりのある作品です。

連載中

The video game with no name

The video game with no name(赤野工作) - カクヨム
レトロゲームレビューサイト開設しました!

461,090文字

2115年4月、レトロゲームレビューサイト開設。未来のレトロゲームを語っていくという天才すぎる設定。

例えば1話目は

タイトル:キミにキュン!人工ヒメゴコロ
発売日:2022/08/31
発売元:人工おとめ組

とてもゲーム愛、ゲーマー愛にあふれた内容。分かってる感はんぱない。ゲーム好きは必読!

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

ようこそ異世界へ~恐竜グルメの旅~

67,612文字 (カクヨム版

長野県の松代市に、恐竜時代に繋がる謎の陥没穴が何の前触れもなく出現した! 世界は震撼しパニック状態に陥ったが、やがて人類は落ち着きを取り戻し、古代への大冒険に打って出始める。

カレー屋の一人娘、セラミックこと「瀬良美久」。彼女の夢は恐竜料理店を開業すること! 調査チームの一員として、今日も仲間たちと恐竜狩りに向かう。

恐竜を食べる、という発想が新しい! う~ん……おいしいんでしょうか。想像力が刺激されます。また、恐竜たちと古代地球の描写もダイナミックで楽しい。恐竜時代を歩く、ロマンですねぇ。

ネタバレありの感想

誰かさんが恐る恐る調理して食べて気付いてしまったのだ。
恐竜肉が、とてつもなく美味しい肉である事実を。

鳥類に進化する恐竜、いわゆる竜盤類の中の獣脚類は温血動物で羽毛に覆われており、見た目も行動も鳥そっくりだった。当然肉質も鶏肉そのもの。いや、高級地鶏と比べてもはるかに上質なコクと旨味と脂のノリは、一度でも口にしたら忘れられなくなる夢のような味と食感なのだ。

ほほ~う、鶏肉っぽいと。恐竜カレー・恐竜ラーメン……私も食べてみたい。

そして古代の地球、そこはある意味では中世ファンタジーより別世界!

現世と同じ空を見ているはずなのに何かが違う。酸素濃度云々も違うと聞いた事があるが、人類の生産活動とは無縁にある大気汚染のない青空は薄気味悪いほど透明で純粋、蒸留水のように混じりっ気なしだった。

ジュラ紀、正確には白亜紀にも近いとされる太古の世界は、生物相が現代と似ても似つかずギョッとする。這い回る虫がとにかくデカい! ゴキブリはグローブほどの大きさがあるし、赤い百足は1メートル級、6枚羽で飛翔するカゲロウも鳩ぐらいだ。ジャングルを構成する木々も銀杏やソテツ以外はなじみが薄く、背の高い蘆木の一種は将来石炭になるのかな、と考えると感慨深い。

想像してみるとたまりませんね。肉食恐竜とか並みのモンスターより危険でしょうけど……

た主人公のセラミックさんは元気娘であり読んでて楽しい。そして、恋する乙女のラブコメ要素も良いアクセント。

グルメ系の異世界ファンタジーの系譜と言えると思いますが、とても変わり種であり個性的。作者さまのすばらしきアイディアと恐竜愛が楽しい作品です。

 

宇宙ゴミ掃除をビジネスにする話

60,152文字 (カクヨム版

金融会社が目を付けた新しいビジネス、それは宇宙空間の債権!? コスト的に可能なのか? 技術的な問題は? 1つのアイディアが世界中の人々を動かしていく。

宇宙開発×金融ビジネス。SF、と言うより新しい商品が生まれるまでの誕生秘話。「この先、現実でも似たような人々が似たようなことをするんだろうなぁ」というしみじみとしたリアリティありますね。

アメリカンな雰囲気が感じられる文章もweb小説では新鮮かつ読みやすい。

ポストアポカリプス系

完結

オカルト少女と宇宙人に攫われた少年 ~ 水の惑星に沈む街 ~

オカルト少女と宇宙人に攫われた少年 ~ 水の惑星に沈む街 ~(深水映 (ふかみえい)) - カクヨム
海底遺跡、超古代文明、オーパーツ、失われた記憶を巡る少年少女の冒険!

112,853文字

ハチオージと呼ばれる漁村に流れ着いた少年「ジュン」。彼は記憶を失っていた。オカルト好きの少女「ピペ」に発見され、研究所で働くことに。そこでは古代トウキョウ文明の調査が行われていた! おぼろげな記憶と、遺跡の関係とは?

SFボーイ・ミーツ・ガール。ブラックキギョーなど、ユーモアたっぷりに紹介される古代文明の言葉が面白い。そして海に沈む巨大遺跡はロマン。水中にある東京……探索シーンを想像すると良いですねぇ。

 

失楽園のネクロアリス ‐Garten der Rebellion‐

失楽園のネクロアリス ‐Garten der Rebellion‐(雪車町地蔵(そりまち じぞう)) - カクヨム
奇跡を求め、棺から飛び出すSFガジェット!屍者の少女は乱舞し殺戮する!

112,331文字

世界には珪素と重金属が満ちていた。きびしい環境の中、人類は〝神樹木〟と呼ばれる木々に頼り各地に小さな集落を作って生き延びている。それらを渡り歩く2人組の旅人。男は死者になった少女を蘇生させるため、邪魔ものたちを薙ぎ払いながら前に進み続ける!

美しくも退廃的な世界観、ギミック満載で迫力ある戦闘、雰囲気たっぷりな言葉選び……一言で表すなら「かっこいい!」。やや難しく大げさな表現が多くて中二病っぽくはあるけど、薄っぺらくないのは作者さまに確かな文章力があるからでしょう。

ネタバレありの感想

「第一幕から、第二幕までの開帳を承認」
了解しましたヤー私の主マイスター。〝戯曲・孔雀石の小箱パーヴェル・バージョフ〟──汝が命は、約定をたがえ散り逝くもの」

暴風。
或いは波濤はとう
しからば暴力。
それは、どんなものよりも雄弁な力の行使であり、美しき舞踏であった。

左腕一本で棺桶──集合可変兵装たる複合調律解析機Composite Rhythm Analyzerを、一時の逡巡の末、彼は構える。
再びモノクルがちかちかと明滅し、最適な数値を算出する。
距離、質量、弾頭材質、加速度、反動──そのすべてが棺桶の中に転送されると、棺桶に変化が起きた。
CRAの足元部分が半分に割れ、上下に展開。
後半部分は、十字形に似た排熱器官を露出し、銃身バレルが現れる。
さらにいくつかの配線機関が地面へと突き刺さり、管理者のいない神樹木自体から無理矢理に電力を奪取する。
電磁インパルスの収束。
充電が終わると同時に、彼は狙いを定めた。

「……これは、骨肉ではなく心根まなじりにて狙い定めるものなり」

さきほどまで目を通していたハードカバーの一節を、彼は囁くようにうたった。
そして、モノクルがGOサインを出した瞬間、躊躇わずに引き金を引いたのだ。
刹那、膨大な電力が収束し、弾頭に荷電──射出される。
電磁投射式弾体加速装置レールカノン

くぅぅ! 好きです、こういう設定! 棺桶型武器庫、変形ギミック付きとか燃える!

こういう文章って下手にやりすぎるとゴテゴテしてるだけになりがち。それ対し本作ではちょうどいいバランスに保たれています。

世界観・設定に美しさがあり、絵になるシーン多数。ポストアポカリプス&サイバーパンク、読んでると脳内にイメージがわいてきますね~。

ストーリーも登場人物が少ない分だけ軸がはっきりしていてテンポ良し。お互いの意思と意地がぶつかり合う熱い展開。愛しているからこそ譲れない! 終わり方も作品の雰囲気にはぴったり。こういう世界観と文体だと、ラブ甘なハッピーエンドはよりビターなエンディングが似合う。

全体を通して作者さまの思い描く「かっこよさ」「美しさ」が強く伝わってくる物語です。

 

鋼の海の鯨

94,715文字

清潔で高度な『陸』と、過酷な作業で強いられる『海』。人間社会が2つに分断されている世界。もはや海水は生命を蝕む毒水になっており、長く潜っていると死んでしまう。しかし『海』の人々はそこから古代文明の金属片を拾い上げることで生活していた。主人公は世界の謎を知るために、空中に浮かぶ巨大機械『空』を目指す。

生き物が死滅し金属が沈んでいるだけの海を潜る。静かな雰囲気に引き込まれます。また、現状に対する絶望・夢をあきらめきれない気持ちなど心理描写も上手い。終わり方にも余韻と広がりがありますね。

ネタバレありの感想

暗く冷たい海の中に生命の気配は無い。海の水の中では生き物は生きられないのだ。
恐ろしく透き通った水の底に鋼が沈み、沈んだ時のまま、そこに在り続けるだけ。
生命無き海の底では、海の外でのようにバクテリアがものを分解することもない。海の底に沈んだものは消えもせず、朽ちもせず、ただ、永遠に沈んだままなのだ。

死と静寂、そして永遠の透明空間。読者として見てる分にはロマンたっぷり。1度だけなら潜ってみたくなります。繰り返し潜り続けないと生活できないと言われたらそりゃ絶望しますけど。

また、主人公「ヴァル」の思想が印象的。

何かが『空』にあるような気がする。そんな曖昧な希望だけが、ヴァルの生きる意味だった。
道程の険しさを知って、希望の儚さを思って、それでもヴァルにはそれしか無い。生きる為に生きたくはない。面白くもない人生だったと振り返りたくない。
惨めな生活に命を溶かしていくのなら、希望を手繰って、一瞬で燃え上がって消えてしまいたい。

いわゆる少年漫画的な明るい希望とは違う。自分の行動で世界は変わらないだろうと思いつつも、夢を追いかけ続ける。自分だって100%信じているわけじゃない。でも希望を捨ててしまったら、もはや生きている意味がない。見事な描写だと思います。

あと『陸』『海』『空』『魚』『鯨』『神』といった単語の使い方もセンス良し。これをカタカナにするとまた雰囲気が変わるでしょう。
エンディングは苦いし残酷だけど未来が感じられる。神がいなくなった新しい世界、トーレムだけが残るってのも良いですよねぇ。そしてミラさん、ぽっと出に幼馴染を寝取られたのに命を捨てて助けてくれるほんと良い女。

無駄のない文量で、1つの世界とそこに暮らす人々をしっかり表現している作品です。

連載中

鉄錆びの女王機兵

鉄錆びの女王機兵(荻原 数馬) - カクヨム
戦車と一体化した四肢無き女王と、荒野に生きる鉄騎士の物語

206,992文字

ミュータントたちが潜む危険な荒野。少女は手足を食われ、少年は彼女を助け出したものの生活に先行きが見えない。最後の手段で選んだ人体実験、そして彼女は戦車と接続された。

ミュータントたちとの戦いと、2人の恋愛関係。世界観・バトルシーン・心理描写、すべての要素が高いレベルでまとまっている良作。ほんとセンスがいい。何というかギャグは自然ながらも切れ味が鋭いし、キャラもみんな濃い奴ばっかり。おもしろい人しか出てこねぇ!

ネタバレありの感想

後方に鎮座ちんざする女の存在が、この戦車の異様さをかもし出していた。
まず、両手がない。肩から先に腕はなく、代わりに腕と同じくらいのチューブがつながれ、戦車と一体化していた。

両足もない。ひざから先にすねはなく、これもまたチューブが接続されている。
顔の上半分をおおう巨大なゴーグルを装着し、カメラと連動して視界を確保していた。戦車の動きは全て彼女の意のままであり、一体化しているのだ。

「私は、いつまであなたの重荷おもにであればいいの……?」

違った。ディアスの愛情を無視したわけではない。愛しているからこそ身を売ることを深く考えたのだ。

愛する者が己のために、独りで無茶な狩りを繰り返していることはわかっている。いつか無理がたたって、荒野に死体をさらし二度と返ってこないのではないかと思うと胸が張り裂けそうになる。

手足がなく生活のすべてを相手に頼るしかない少女。命を懸けて戦いながらも稼ぎが足りない少年。2人の不安がごりごり伝わってきます。

ヒロインのカーディルさんもほんと良いキャラしてんですよ。いわゆる主人公に依存しまくりだけど、テンプレなヤンデレじゃなくて実にリアリティがある。1つ1つの言葉選びが光ってますね。設定・キャラ、説明しずらいんだけど本当に「センスがいい」って感じ。細かい部分のおもしろさがすごい。こういう人は貴重です。

ミュータントたちの不気味で凶悪な描写も見事。化け物たちと銃と戦車を使ってバチバチにやり合うのも臨場感たっぷり。SFと言っても色々とありまして、こういうポストアポカリプス系のガンアクションはweb小説だと少ないし、質のいい作品となるとなおさら貴重。興味を引かれた人はぜひどうぞ。かなりおすすめ度が高いです。

 

灰の街の食道楽 〜SF世界のわくわくグルメ〜

灰の街の食道楽 〜SF世界のわくわくグルメ〜(黄鱗きいろ) - カクヨム
人外幼女と三十路男性がバディを組んでSFごはんを食べる話です。

104,994文字

昼夜問わず灰が降っている街。薄暗い殺伐とした世界でエージェントとして生きる男と異形の少女の2人組が、ごはんを食べてたり、人間が変身した化け物と殺し合ったり。

一度は崩壊した文明&異形の怪物&少女&ごはん。戦いと食べ物ネタの2本軸なのがいい味してる。やはり食事というのは文明と生活の中心。そこをしっかり描くことで変化してしまった社会と主人公たちの暮らしがより具体的に伝わってきます。

 

『平均、36℃』

36,207文字

文明は崩壊し街は植物に覆われつつある時代。人間は凶暴な動物たちと、何より人間同士の生存競争を強いられている。そして、そんな世界に忽然とそびえる巨大な塔があった。そこから飛行機に乗った少女が不時着してきて……?

銃を使った必死の戦い、自然に侵食される都市、世界の謎。これぞポストアポカリプスな良い雰囲気。物語としてもボーイ・ミーツ・ガールで定番ながらドキドキハラハラさせられます。

ネタバレありの感想

――2149年 12月 24日
3年間かけて戦場から故郷に帰り着いた。
かつて家だった瓦礫から、妻と子供達らしきものを埋葬してやる事が出来た。
帰り道で、今までの世界がとっくに終ってしまった事など理解した積もりだったが、今日になってようやく受け入れられそうだ。
装備はまだ十分に動く。
待たせて悪かった、皆。

――2149年 12月 25日
引き金を引く事が出来なかった、くそったれ。

――2149年 12月 31日
人を求めて廃墟を彷徨い、ようやく首都圏に辿り着いた。
繁栄の跡が、植物のコーディネートに溢れている。
動物たちが我が物顔で交差点を闊歩していた。
今の私は大切な人を護る筈だった技術で、自分の生を繋いでいる。
来年には誰かに会えるだろうか。地下鉄になら生きている人間がいるかもしれない。

これは最序盤の文章なんだけど、日記を演出に使っていて上手い。説明臭くなりすぎず世界観を見事に表現している。やっぱセンスのいい始まり方をしていると一気に期待値が上がりますよね。続きが読みたくなる。

そして植物に覆われた都市、交差点を歩く動物たち、地下鉄に暮らす人間……いいですね! 美しい風景描写。ポスアポ好きにはたまりません。

そして、ヒロインを無事に目的地まで送り届けることができるのか?

少女の衣服は墜落の事故で既に煤汚れで至る所が黒ずんでいたが、服の端々には清潔さを感じさせる残滓が残っている。この眠り姫はこことは違う何処かで、大切にされていたのだろう。

その中で明らかになっていく世界の謎! 高い科学力を持っているらしい塔の正体は? 定番ながらドキドキハラハラ。主人公の心理描写も丁寧。

シリアスな世界観ながらも読みやすい雰囲気、バランス感覚の良い作品です。

パニックホラー、サバイバル

完結

狩人と奴隷少女の日本”ゾンビ”列島紀行

614,185文字

動物に寄生してゾンビに変える菌類の繁殖と、それによる社会の混乱によって衰退してしまった日本。狩人の男と喋れない奴隷の少女の戦いと生活。

中々に本格的な文明崩壊&ディストピアもの。小説家になろうにしては、かなりエロ描写がきついので注意。

ストーリーもかなりハードで登場人物は容赦なく死にます。かなり「いや~な感じ」の状況が多いんだけど、この作品はその「いや~な感じ」の描写が上手いですね。ねっとりとした不快感と危機感がビンビンに伝わってきます。

あなたの未来を許さない 

261,905文字

根暗な女子高生「御堂小夜子」。彼女はある晩、27世紀の未来人から大学授業の教材として【対戦者】に選ばれる。殺し合いのために特殊な力が与えられるはずであったが、なぜか能力無しになってしまい……

無能力の人間が、知恵と工夫で能力者たちを倒していく描写が見事。全体の筋としても展開が上手く迫力がある。引き分けという選択肢があるのがリアリティを増して良い感じ。

主人公の小夜子が重度の変態レズであり、また1度だけだが性的暴行シーンが出てくるのがやや読む人を選ぶかも。

また、イラストレーターと組んだ挿絵があるのも特徴。白黒でシンプルながらキャラの外見・雰囲気がよく分かってナイスな出来栄え。イラストは今後も追加予定とのことで、さらに完成度が上がっていくのはすごい……

ネタバレありの感想

まず、SFとしての論理に説得力とオリジナリティがある。この作品は、タイムマシンを持つ27世紀の未来人たちが企画したデスゲーム。教育運用学の試験として、人間を上手く操縦する方法の学習と極限状態に置かれた人間の観察を目的とする。ついでにテレビ局協賛のエンタメ番組もあるという外道っぷり。

「過去の人間を殺し合わせるとかタイムパラドックスが起きるんじゃないの?」という話になりますよね。
そこで本作ではコンピューターの計算によって、未来にまったく影響を与えたなかった人間を選んだ、という理論が説明されています。

生物としての血脈は勿論、関与した事柄が僕達の現代まで何も繋がっていないことが、歴史上の事実として明らかになっている。これは学校の天体量子コンピュータで手間をかけて検証し計算したものだから、間違いない。

歴史および時間の流れにおいて完全に無意味な存在。だから、干渉して改変しても問題ないという理屈。う~ん素晴らしい。

また「無意味な存在と言っても、殺し合わせるとか人権上どうなの?」という突っ込みもありますよね。
それに対する回答としては、社会貢献する可能性が0なら人権は与えられない、という説明。

いいかい、【人権】っていうのは、その人間の【将来的な可能性】を担保にした保護なんだ』

(中略)

『だから君達みたいな「存在する意味が無いことが確定している人間」には、【人権】は適用されないんだよ』

なるほどなぁ、一理あるって感じですよね。選ばれた方はたまったもんじゃないけど(笑)

こういった説得力のある独自の理屈がでてくる作品は良いものです。世界観に厚みが増しますよ。特にSFの要素がある作品は、説明・理論の説得力と面白さこそが見せ場だと思いますし。

主人公たる小夜子さんも魅力的。幼なじみの「恵梨香」が大好きすぎる変態レズ。しかし、この部分に隠れているんですが他の部分も割と好きな性格だったりします。

まず、彼女は自分自身を無価値だと思っていて、それゆえに未来人の説明を信用します。

『君は何者にもなれなかったし、何にも繋がらなかった』

この一言が。
小夜子が自分の心を縛り続けていた鎖に証明書を付ける、この言葉が。
何よりも、どんな説得よりも。
小夜子に、キョウカの話を信じさせる力を帯びていた。

私はここの流れ好きですね。周りにどれだけ否定されても、自分の可能性を信じ夢を諦めない。そういう主人公も多いですけど、そこまで自分を信じるのは大変なことでしょう。
「お前は無価値だ!」と言われて「そうだよね!」と同意していく方が私には共感できました。

さらに、小夜子の思考回路は割と大人。両親は離婚、母親に出ていかれ1人で自分を育てている父親に対して

最早、逃げた妻に対する意地だけで娘を育てているのかも知れない。

自分を裏切った女の顔に、年々似てくる娘を育てなければいけない、という父の苦痛を察すると、小夜子は時々申し訳ない気分になってくる。いっそのこと、愛人を作るなり、後妻でも貰って気持ちを切り替えてくれればいいのに、とも思うのだが、そんなに簡単に折り合いを付けられるものでもないらしい。

いや~、冷静な分析と優しい意見。自分を愛していないことを理解しつつも、父親に同情する。大人の態度じゃないですか。

他にも自分を虐めてくる女子グループについて

それに、自分自身は無価値な存在だと認めている小夜子であったが、姫子達がクズだとは思いつつも無価値とまでは思っていなかった。
憎まれっ子なんとやら、という奴だろうか。性格が悪い人間のほうが世渡り上手であることを、小夜子も知らない年齢ではない。
ああいう人間のほうが、世間では強いのだ。

自分よりも、自分を虐めてくるクズ共の方が社会的には価値があることを受け入れ認める。なんて大人!

う~ん、これだけ分析力があって冷静で優しい小夜子さんがなぜ社会的に無価値になってしまったのか……普通に立派だと思うのに。
まぁ、最後まで読めばそうじゃないっぽいことも分かりますけど。計画の一部だから、参加してもらわないと困ると。

さらに、ストーリーもすごい。1つの特殊能力が与えられるはずの対戦者たちの中で、小夜子だけがまさかの能力無し。ここが本作の面白いところであり上手い部分。

まず、作品の中心であるバトル描写。能力者に対して、能力のない常人が知恵と工夫で戦っていく。弱者が強者を倒す、まぁ割とスタンダードな路線では。
もちろん、この部分も高水準ではあります。小夜子のとっさの戦術と諦めない執念は緊張感と迫力満点。

しかし私が上手いと思ったの直接のバトル以外の部分。まず、小夜子は現代人同士で話し合って引き分けのまま企画を終わらせようと考える。平和的で現実的、たぶん私も同じ状況なら同じことを考えます。
そして対戦相手との会話に成功。自分の能力を聞かれても素直に答える。自分は能力無しです、と。それに対する相手の反応は? 「嘘つくなよ!」

そりゃそうですよね~(笑) 能力を隠してるようにしか思えない。この状況で本当に能力が無いなんて信じる方がおかしい。
能力無し、ゆえに相手から信用されない。平和な交渉ができない。殺し合うしかない。無能力だってことが平和な交渉を自然に禁止して殺し合いへと物語を誘導していくわけですよ。リアリティのある展開。小夜子に能力があれば、きっと話の流れは変わったでしょう。

また、能力無しになった原因は監督である未来人キョウカへの嫌がらせだったことが途中で発覚します。キョウカも虐めを受けていた、これを知って小夜子は彼女に親近感を持ちます。能力無しの原因を上手く物語に絡めている。

最後に、勝ち残ってしまった小夜子はタイムマシンで現代に来ていた監督者をキョウカと協力して皆殺しにしまう。勝手な理論でデスゲームに参加させやがった復讐ってわけですね。

しかし、そこは対戦フィールドではなく能力は使えない。普通なら復讐なんて不可能。でも、小夜子はもともと無能力で勝ち上がったきた。だからこそ能力なしでも復讐できる。他の誰かが生き残っても結局は未来人の言いなりになるだけ、対戦者たちの中で唯一小夜子だけが未来人たちを殺せる可能性があった。

読んでて「なるほどな~!」と感心しちゃいましたよ。ここにきて無能力が「弱さ」から「強さ」に変換されるカタルシス。調子に乗ってた未来人たちの見逃し。そしてキョウカに嫌がらせした虐めグループの自爆。上手い展開。

このようにバトル以外でも無能力であることが展開に活かされているわけで。無能力の弱さの側面だけを見るのではなく、それを多角的に利用。作者である「Syousa.」さまは上手いですねぇ。

あと話はズレますけど、本作「あなたの未来を許さない」では途中でタイトルが回収されます。タイトルが回収される物語は良作の確率大! これはみなさん経験している法則じゃないですかね?

この作品は挿絵も大きな魅力。作者さま本人ではなく「jimao」という方が描いているとのこと。愛を感じるイラストで本当に良い。

「小説家になろう」の作品を評価する時にイラスト、しかも作者以外のイラストレーター制作、を考慮するというのはやや邪道な気がしないでもない。
でも、コンテンツとしては文章だけよりイラストがあった方が良いに決まってます。すばらしい物語に、すばらしいイラスト。総合評価としては私の読んできたweb小説の中でもトップクラスの完成度です。

 

海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと

海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと(石川博品) - カクヨム
終わった戦いと、癒えぬ病。

173,800文字

主人公「上原蒼」は日曜日になると、海辺の病院へ行く。かつて一緒に戦った少女たちの見舞いのために。奇病によって一夜にして死んだ町、謎の怪物たち。そして生き残りの高校生たちに発現した超能力。救いなき戦いの記憶と癒えぬ病。

淡々とした文体に迫力が出ていて、序盤から重苦しい魅力が。バトルものであると同時に青春譚であり心理描写も厚い。夢・戦う目的などが深掘りされていて登場人物にリアリティが出ている。

ネタバレありの感想

右肩をつかみ、腕を撫でおろしていく。二の腕は何ともない。ひじのあたりからおかしくなった。手触りが人間の体とはまるでちがう。硬くて、爪を立ててもへこまない。腕が完全におおわれて隙間はなかった。

手首にかけて細くなっていく。だがそれは人体の自然な輪郭とはちがった。その先はさらに細く、指があるはずのところより先まで行って鋭くとがっているようだった。

彼はベッドからおりた。動くと頭が痛かった。耳がかっかと熱い。

電気をけると、それがはっきり見えた。

肘から先が黒い金属に包まれている。ヨーロッパの騎士が馬上試合で着けるやりのようだ。LEDのライトでも埋めこまれているみたいに赤と青の光が並ぶ。彼は以前テレビで見た光る海月くらげを想起した。

全体的に静かな文章なんだけど逆にそれが物語の凄みを増している。序盤の病気による悲劇は強烈に引き込まれます。

また、キャラクターの描写も見事で1人1人抱えている思いが違うんですよね。

力のことを隠しとおせぬことは彼にもわかっていた。

そうかといってあっさりと明かす気にもなれない。自分でもそうとは認識していなかったが、心の奥底ではこの力を自分ひとりだけが持つものと誇っていたのだ。

同じ能力者が現れて、蒼の特権的な立場は崩れた。たった1匹殺して満足している蒼とはちがい、彼らはもう3匹も殺したという。

劣等感をおぼえる。勝ち負けがつくことは嫌いだ。だから部活も勉強もやる気になれない。走るのはいつもひとりだった。

だがいまは、夢を追っている――あの蜥蜴どもを殺すという夢。

小さなプライドを後生大事に守っている場合ではない。

自分には夢が無いと思っていた少年。しかし、それは今の日常に満足していたからだった。それが突如にして崩壊してしまう。
復讐こそが自分の新たな夢だと感じ、能力を授けられた特別な人間だと信じる……のだがそんなことはなかった。

主人公の心理描写がとても上手く、共感しちゃうというか「分かるな~」と感じるポイント多数。ほんと上手いです。シリアスな戦場にいるはずなのに女子の体にときめいちゃうのも実にリアル(笑)

終盤に明らかになってくる真実はバトルものとしては賛否両論かも? しかし現実の不条理こそが敵である青春ものとして見れば良い展開でグッときました。侵略はなくただの事故。正義VS悪なんて構図はなかった。そして大人たちからは使い捨て。やりきれませんわな……

終わり方はかなりビター。ヒロインの心は最後まで変わらない。なんつーか、嫌な方向にリアリティがある。でも、作品の雰囲気にはぴったり。エピローグも実に深い。

子供じみた夢がかなうとわかったら、そこに飛びこむしかなかった。

ここまで読んでくると強く胸を打たれる言葉です。全体を通して見事な描写だらけであり、さすがに実力がある人は一味違いますね。

 

限界集落・オブ・ザ・デッド

限界集落・オブ・ザ・デッド(ロッキン神経痛) - カクヨム
恐れと鍬を捨て、死者と戦おう。

107,185文字

死ぬと、留人(るじん)と呼ばれる人を食べる化け物としてよみがえってしまう世界。今では対処法が確立され、田舎の老人たちも平和に暮らしていた。しかし、大量の留人たちがやってきて……!?

いわゆるゾンビもの。しかし、設定が工夫されていて個性的。田舎の老人と集落が舞台であり、派手さはないがしっとりじっとりした死と恐怖がある。また、実は留人によって文明が崩壊した未来の話のようで、留人を前提にした文化と社会に引き込まれる。

なお「番外編 一路」は、個人的にはやや蛇足というか、色々と衝撃の事実が判明しまくるので注意。読後感がかなり変わります。

書籍版の情報をAmazon.co.jpで見てみる

 

オーガニック死霊のはらわた

オーガニック死霊のはらわた(枕目) - カクヨム
菜食主義ゾンビたちのおそるべき未来

18,301文字

菜食主義者のコミュニティに取材に来た主人公。ここでは特別なヨーグルトによってみんな健康だと言う。しかし、なんだか様子がおかしくなってきて……!?

人間をゾンビ化させる乳酸菌バイオハザード! ネタに走りつつも理屈に説得力がありゾンビものとして芯が通っている。テンポの良い短編。少しタイトル詐欺ではある。

その他

完結

WIZARDWARE魔法戦記「ソフトウェア魔法VS.影の王」

175,049文字 (カクヨム版

上空に浮かぶ「影の王」の輪郭――敵の大きさは直径50メートル。目覚めるまでの期限はあと12年。武器は「魔法研究所」が開発を続ける魔法弾のみ。主人公は独創的な発想で魔法を拡張し、強力な運用を可能にしていくが……?

基本的な雰囲気は中世ファンタジー。ソフトウェア(C言語プログラミング)の仕組みを適用しているらしいですが、知識がなくても純粋に魔法の進化として楽しめます。独特な魔法運用法のおかげで戦闘シーンは個性的で迫力も満点。人間関係の描写も丁寧。

終わり方は賛否両論あるようですが、SFとして見れば広がりと余韻のあるすごく良い締めだと感じました。

ネタバレありの感想

魔法弾を変数と考えてください。配列の場合は、魔法弾を集めた一塊ひとかたまりに相当します。単純に『変数』を用いた場合、ひとつひとつが単発で存在しているため関連性を持たせることができません。従来の魔法弾放出の仕組みです。しかし、『配列』は内部に魔法弾が順序正しく並んでいます。右腕に魔法弾を蓄積することによって作り出した魔法弾の『配列』に対し、手のひらから外へ放出するという命令を一度に与えることができます。

10個の魔法弾を連結させた炎の光条は、1部隊から2本ずつ10部隊から一斉に放たれて計20本を数えた。

火をつけた弓矢などおもちゃに見えるほどの破壊力、貫通力のこもった赤い矢じりが何本も大草原をつらぬいた。地面と水平に直進する帯の数々は真っ赤な絨毯じゅうたんを思わせ、過ぎ去った後に残る残像は北方の世界に存在するというオーロラを連想させた。

魔法の進化、そして運用法の進化。新しいアディアが出てくるたびワクワクドキドキですね! まとめて発射、から複数人の連結を即座に思い付ける主人公の天才っぷりがすごい。発想が柔軟すぎるぜ……

戦場の描写は迫力満点です。バラバラに戦う・個性を活かすという方向性ではなく、いかに良いシステムを作って大人数を効率的に運用するのか。大人数による戦いになるため割と派手に人が死ぬ。明るい圧勝は無く、1つ1つの戦いで犠牲が出て重苦しい。

キャラも良い味してます。何というか、「主人公から相手の人物はどんな風に見えているか」って部分がリアリティある感じ? 主人公の感情が上手く書けているため周りのキャラにも存在感と厚みが出ている。邪魔してくるやつらはクズいんだけど、読み終わってみると微妙に憎み切れない。

最終話は普通に驚きましたね。まさかゲーム世界でAIたちの行動だったとは! まぁ、伏線は貼ってあるので納得はできるしAIたちが創造主である人間を超えていく可能性があるというのは、SFとしてはロマンがあってステキな展開。

アイディアの面白さ・文章力・ストーリー展開、どの要素もレベルが高い作品でしょう。

 

小説投稿サイトでランキング一位を取らないと出られない部屋

67,944文字

何もない部屋に閉じ込められた男の、地獄の投稿生活。条件をクリアしないと無限にループ。1位を取るために男が考え付いた方法とは? それは成功するのか?

中編小説にして、小説家になろう攻略講座。単純に物語として面白いし、高評価を取るためのテクニックも分かりやすく書かれています。

作者は「無職転生 - 異世界行ったら本気だす -」と同じ人であり、実際にランキング1位を取ったからこそ書ける小説。面白いし参考になる、さすがのセンス。作品を投稿している人、もしくは投稿しようと思ってる人は必読ですよ!

ネタバレありの感想

さて、『小説を書こう』には、予約投稿という機能がある。
投稿したい小説を、決めた時間になると自動的に投稿できる、というものだ。
これによって、普段、仕事などの関係で人の多い時間に投稿出来ない者でも、毎日人の多い時間帯に投稿することが可能になる。
『小説を書こう』では、多くの者が使っているようだ。

しかしながら、この機能には弱点がある。
予約できる時間が、1時間毎なのだ。
なぜそれが弱点なのかというと……例えば、予約投稿を人の多い時間帯にセットするとしよう。
仮に19時とでもしておこうか。
しかし、人の多い時間帯に投稿しようという者は一人だけではない。
俺が思いついたのと同様のことをしようと考える者は、大勢存在する。
彼らもまた、19時に予約をセットする。
それがどれだけいるかはわからないが、『小説を書こう』のユーザー数はかなり多い。
20件以上の作品が、19時に予約投稿されるだろう。

でも、『更新された連載中小説』に表示されるのは10件しかない。
そう、溢れてしまうのだ。

その溢れを回避し、一番上に表示されるための技術。
それが1分後投稿だ。
これは一覧が更新された瞬間の時間から、最も近い時間に更新されたものが、一覧の最初に並ぶことを利用したテクニックだ。
まぁ要するに、1分後に投稿することで、『更新された連載中小説欄』の上の方に表示される確率が高まるということだ。
もちろん全員が予約投稿機能を使っているわけではないし、同じような技術を使う者もいるため、流れてしまう時はあるが……。
しかし、確率はグッと減る。

う~ん、すごい工夫です。ここまでしっかり研究して投稿している作者ってどれだけいるんでしょうか。さすがは理不尽な孫の手さま、ここまで考えているからこそ1位を取れるんでしょう。
このような方法論が作中でいっぱい登場するので、めちゃくちゃ参考になっちゃいます。web小説を投稿している人は必見の内容ですよ!

ストーリー面もすごく面白い。最初は思い付きの作品を自信満々で投稿した主人公が、評価を得られない厳しい現実に叩きのめされる。
そこから分析をして高評価を取るためのヒントを見つけ出し、読者からの感想に一喜一憂。しかし実力が無いとあきらめ、脱出をするために時間ループを利用した盗作を始めて……

主人公が評価されずに苦しむ気持ちが、創作活動をしている人間としてはすごく共感できます。そして批判コメントにはものすごく敏感になる、これもあるある~。

そして、「時間ループを利用した盗作」というSF的アイディア。これがただの創作論を超えて、物語としての深みと独自性を出してますねぇ。

小説家になろう攻略講座としても、創作者の絶望と希望の物語としてもハイレベル。理不尽な孫の手さまが、どれだけ本気で創作活動と小説家になろうに向き合ってきたのかが強く伝わってくる。ぜひ1度は読んでみるべき作品です。

連載中

石油玉になりたい(短編集)

石油玉になりたい(短編集)(柞刈湯葉) - カクヨム
モスバーガーの注文後の待ち時間のための短編集

58,518文字

ショートショート集。オチがきれいに決まっていて余韻がある。舞台は幅広いが、SF要素のある話がやや多め。個人的にはタイトルにもなっている「石油玉になりたい」がお気に入りでしょうか。

 

Jail Fragment

Jail Fragment(木古おうみ) - カクヨム
これは囚人番号……の正式な記録ではない。

24,113文字

怪奇短編集。不思議な力を持ち強烈な殺人事件を起こした囚人たち。彼らから依頼を受けたカウンセラーの断片的な記録。謎めいた能力とそれによって生まれる人間ドラマ。作者さまの想像力にうならされますね。

でも、こういう世界観だと1番やばいのは捕まってない奴らでは……!? 刑務所に入ってる時点で割とマシっぽいというね。

ネタバレありの感想

毎回よくぞアイディアを思い付くものです。私が特に好きなのは第1話の「オーバーキル」。引用すると、

898を囚人番号で呼ぶ者はぼく以外いない。本名で呼ばれることもない。ひとびとの話題に上がるとき、彼は「オーバーキル」と呼ばれる。
事件と無関係の人間や女子どもをも容赦なく爆殺したから、というわけではない。彼が起こす爆発は、犠牲者が多すぎるのだ。
898が爆破した現場の遺体を繋ぎ合わせると、必ずひとり余分が出る。まるで別の絵から迷い込んでしまった、決して当てはまることのない、ジグソーパズルのピースのように。
そして、余りの犠牲者は必ず、爆発に巻き込まれるはずのない人間だ。あるときは第二次世界大戦中のドイツの軍服を着た脚が、あるときは根絶された天然痘のあばたが散った腕が、あるときは原人としか思えない骨格の顎が、瓦礫の山の中から見つかる。彼の爆発は、場所を越えて、時代を越えて、殺しすぎるのだ。

爆発に謎の犠牲者が混ざる! ほんと良い発想。検死をした人たちは混乱し恐怖したはず。想像するとゾクゾクしますね。

作者さま曰く、ネット上のホラー創作コミュニティ「SCP」を参考にしているとのこと。確かにそんな感じ、SCPが好きな人は間違いなく楽しめるでしょう。
作者さまの想像力とセンスに引き込まれる短編集です。

番外編 個人サイト

ニトロの悲劇

長編、連載中

SFラブコメディ(?)。有能だけど自己中心的かつ超わがままで有名な「ティディア姫」、そして彼女に呼び出された一般人の青年「ニトロ・ポルカト」。2人が巻き起こす騒ぎと事件!

ニトロ君の突っ込みが冴えわたる。言葉だけじゃなく、直接的な打撃も辞さない! わがまま姫に振り回される男、というのは1つのテンプレだけど、ニトロ君の突っ込みの鋭さが個性になっている。姫は問答無用の自己中心さなので、それ系が苦手な人は合わないかしれませんが……

またSFとしての世界観も上手く作られています。A.Iや小道具がたくさん出てきて楽しい。とりあえず、第1章「ニトロの悲劇」は読みやすい分量で上手くまとまっているのでぜひどうぞ。ストーリー展開の完成度がすごく高い。

ネタバレありの感想

そこだけを見れば間違いなくティディア姫は史上最高の王族であろう。そのため支持も多く、彼女が失脚しないのはここに理由があった。
だが、だがしかし! 数々の偉業に並行して、数々の異業も行われているのだ!
代表的なところでは、自分以外にティディアと名乗ると罰金1兆リェン(ただし、ティディア2とか、ティディアDXデラックスとかは面白いので許可)という法律を作成。
類型的なところでは、俺は硬派だ女はいらんと公言する少年を『証明しろ』と素っ裸の美女十人と1DKに一ヶ月住まわせる→3時間後、少年は強姦未遂で現行犯逮捕、現在執行猶予期間中。
あるいは『限界に挑戦』と、仲の良い夫婦の夫を人質にし、200kmを24時間で走りきらなきゃ人質を埋めると言ったこともある。その時の妻が走る姿を中継した番組は視聴率90%を越え、最後は地を這いながらも時間内に完走した結末は星中の人々を涙させた。
等々、枚挙にいとまがない。
はたから見ているならまだしも、彼女に付き合わされることだけは誰もが絶対に勘弁願う。

クレイジー・プリンセス、ディディア姫! これ系の中でもトップクラスの行動力と迷惑さを発揮する、強烈なキャラ。でもベタぼれで乙女なところも多いんですよねぇ。だが、それを上回る迷惑さ。

第1章からティディア姫が超理不尽。これはニトロ君がキレてもしょうがない。両親を殺した風に見せかける、とか嘘にしても一線を超えてて笑う。しかも、映画の撮影という形にして既成事実を作るとか……すべては手のひらの上。嫌な方向に有能すぎる。

ガジェットも色々と出てきてSF好きにも良い感じです。

改めて教わった戦闘服の機能は実に多岐に及んだ。
防弾防刃衝撃吸収は当然として、繊維内に織り込まれた素子生命ナノマシンが構成する素子生命群エレメンツを変性させることで、状況に応じた服の形状や様々な機能を得ることが可能だった。
とりあえず最低限と紹介された機能だけでも、体温・脈拍等体調管理機能をはじめ、光学擬態、簡易生命維持機能、極小の対光学兵器バリア発生装置、さらには静止画・動画に音楽の記録再生が可能なAVシステムまであった。

本作が公開されているのは「ガリの書斎」という個人サイト。今どき個人サイトだけで公開してるのが硬派で好きなんだけど、そのせいで読者数が少ないのは惜しい。2章以降もクオリティ高いですからね~。
興味を引かれた人はぜひぜひ訪ねてみてください。SFとしてもラブコメとしても良質な作品。

 

SF好きなんですけどね~。web小説だとマイナーな感じ。あと一口に「SF」と言っても、色々とありすぎて分類しにくい……