web小説「園丁の王」を語る! ~センスある舞台設定と巧みな心理描写~

造園という珍しい題材、キャラクターの丁寧な描写、深い読後感……

というわけで、今回は小説家になろうから「園丁の王」について語ります。

園丁の王
十二歳で故郷を飛び出し十六年戦場を渡り歩いた傭兵オルソは、戦// 無料オンライン小説です

根暗な造園家と物怖じしない元傭兵の弟子の物語。天才造園家の過去とは? 中世~近世ファンタジーだけど、魔法的なものより人間関係がメイン。

登場キャラは少ないんだけど、その分だけ主要キャラにとても厚みがあります。また10万文字ほど(=だいたい本1冊ぐらいの分量)で、まったくダラダラした展開がない。

空気感がものすごく好み。戦いも冒険も恋愛もない。良いことだけじゃなく辛いことも起きる。派手で分かりやすいストーリーがあるわけじゃない。しかし、なんというか「人生」が感じられる作品。

ライトノベルと言うより「小説」な雰囲気ですね。なろうでは中々に珍しい作風。

造園、という題材がいい

私ごときの文章力では紹介しづらい作品ではあるんですが……まず、作者である「井出有紀」さまのセンスと個性が光るポイントが造園を題材にしたところ。

造園とは、文字通り庭を作ること。西洋の幾何学的で豪華な庭園の数々はみなさん知っているはず。計算された配置、刈り込まれた草花、噴水や彫像……

あれって巨大な芸術作品みたいなものでロマンですよね。そのくせ、意外と造園をメインの題材に書かれた作品って少ない印象。珍しい題材が出てくると読者としても新鮮な気持ちで読み進めていくことができます。

そして、「庭は製作者の心を反映している」という設定で、庭の描写を通してキャラクターを描くのことに繋げているのが上手い。

いやまぁ、物を見れば作った人が分かる、ってのは現実でも当たり前のことなんだけど、そこをしっかりキャラの掘り下げに使っているのが自然で良い感じ。

ここから先はネタバレ注意です!

1人の男の人生 失敗、苦悩、救済……

主人公は元傭兵の「オルソ・マイラーノ」だけども、この作品は実質的に天才造園家である「グラーブ・ヴァンブラ」の物語だと言える。話のほぼすべてはこの1人の男を書くために使われています。

このグラーブさんが実に存在感があり良い味をしている。1-1からグラーブさんについての描写を一部省略しつつ引用すると

年齢は三十八、肉薄な相貌は青白く、後ろへ撫でつけられた短い髪は黒く、同じ色の瞳には全く光がなく、いくたりとも生気が感じられない
中背の痩躯は、常に黒か、限りなく黒に近い暗い色の衣装をまとっている。右の袖が空虚に垂れ下がっているのは、事故により右肘から先を失ったためだという。

華々しい庭園とは真逆。無表情で、口数も少なく話し方もそっけない。他のキャラクターとは明らかに異質であり、第1印象からググっと読者の興味を引いてくる。作者さまの力量でしょう。

そして、話が進むにつれて彼が常に悩み苦しんでいることが明らかになってくるんだけども……その様子がすごく共感できるというか現実味があるというか。

例えば、娘として扱っていたプルシナが亡くなった後の言葉。

「君の目から見て、私はプルシナへ愛情を注いでいたかね」

はたして自分はちゃんと娘を愛せていたのか? 都合のいい存在として利用していただけじゃないのか? 彼は、そういう疑問を持ってしまうわけで。

そうやって悩むこと自体が愛していた証拠だろうと思いますが、愛ゆえに悩まずにはいられない。そこに作者さまの人間心理の高い描写力があるし、そこまで悩んでしまうグラーブさんに魅力を感じる。

また、もう少しグラーブさんの過去と直接的に関わるところでは、箱庭の親方から

心の穴を埋めることはできない。確かに庭は製作者の心を映しているが、だからと言って庭を作り変えても心は作り変えれない

的なことを伝えられる場面が。

しかし、この親方はクラーブさんの心の一部であり、自分でも分かってたこと。

彼自身も

「思っていただけだ。潜在意識で無意味と知りながら、私はずっと無駄な作業を続けてきたのかと。しかし、他に何ができた? 残された時間は少ない。今さら何を始めろと?」

と独白している。

そうなんですよ、賢いグラープさんが気づいてないはずがない。でも「しかし、他に何ができた? 残された時間は少ない。今さら何を始めろと?」と先に進めないでいる。

無意味と分かっていながら、それに頼ってしまう。他の選択肢が見つけられない。私も共感しちゃいますねぇ。

けっきょくクラーブさんは最後まで悩みと後悔から抜けだせないまま逝くことに。とても心打たれる展開。1人の男の失敗と苦悩の半生、10年以上ひたすらに過去を見つめる日々、何か心の穴を埋めようと必死だった生活……重く悲しいけれど、それがいい。深みのあるキャラクターです。

まぁ死後の魂は救済されたことが後になって分かるので、読者としては安心できるんだけども。この描写がないと読後感が辛くなりそう。

何とも言えない深い読後感

もちろん、この作品はクラーブさんだけではなく、主人公であるオルソさんの方も良い味してます。奥さんをちゃんと見ずに逃げられちゃう展開、私は好きですね。かわいそうだけど男の失敗としてはありがちで笑ってしまいます。

そして娘であるパッセラちゃんに

「それに、あたしがついてったら、おとうさん一人になっちゃうよ」

と言われて、ようやく家族・家庭の存在を実感する。ここまでは結婚してみたものの結局は流れ者の気分だったじゃないかと思ってみたり。

最終章を読むに、なんだかんだ良い父娘関係を築いていけそうでよかったよかった。

 

クラーブさんもオルソさんも、それぞれの人生を歩んでるなぁ、としみじみする。なんとも読後感が深い作品です。爽やかな気分になるわけでもないんだけど……妙に満足しちゃいますね。

 

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